レオナルド・ダ・ヴィンチの代表作10選|『モナ・リザ』『最後の晩餐』など有名作品を解説

レオナルド・ダ・ヴィンチは、『モナ・リザ』『最後の晩餐』の作者として知られていますが、現存する絵画は決して多くありません。しかも、若い頃の作品から晩年まで並べて見ると、遠近法、人物の心理表現、光と影、自然観察、人体研究が少しずつ一つの絵画世界へ統合されていく過程が見えてきます。ここでは、レオナルドの画業を理解するうえで特に重要な代表作10点を、制作時期に沿って紹介します。

人物と生涯全体についてはレオナルド・ダ・ヴィンチとは、時代背景は盛期ルネサンスとはもあわせてご覧ください。

レオナルド・ダ・ヴィンチの代表作10選

1.『受胎告知』

1470年代前半の若いレオナルドを代表する作品です。大天使ガブリエルと聖母マリアを左右に置き、その背後に庭園と遠景を広げる構成には、師ヴェロッキオの工房で学んだ精密な描写と、後のレオナルドにつながる自然観察の両方が見えます。遠くの山や水辺を青く霞ませ、奥行きを生み出す表現もすでに現れています。詳しくは『受胎告知』とはで解説しています。

『受胎告知』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1472~1475年頃 ウフィツィ美術館所蔵
『受胎告知』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1472~1475年頃 油彩・テンペラ、板 ウフィツィ美術館所蔵

2.『ジネヴラ・デ・ベンチの肖像』

若い女性を正面に近い角度から描いた肖像画で、レオナルド初期の人物表現を知る重要作です。背後の杜松はジネヴラの名を連想させると同時に、人物の輪郭を静かに浮かび上がらせます。理想化された美しさだけではなく、閉じた口元やまっすぐな視線に個人の気配を残している点が、後の肖像画へつながります。現在はワシントンのナショナル・ギャラリー・オブ・アートに所蔵され、アメリカ大陸で一般公開されている唯一のレオナルドの絵画としても知られています。

『ジネヴラ・デ・ベンチの肖像』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1474~1478年頃 ナショナル・ギャラリー・オブ・アート所蔵
『ジネヴラ・デ・ベンチの肖像』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1474~1478年頃 油彩・板 38.1×37cm ナショナル・ギャラリー・オブ・アート所蔵

3.『東方三博士の礼拝』

1481年にフィレンツェで着手された大型祭壇画ですが、レオナルドがミラノへ移ったため未完成のまま残されました。中央の聖母子を取り囲む人物たちは、驚き、祈り、戸惑いをそれぞれ異なる身振りで示し、背景には階段状の建築や騎馬人物が入り乱れます。完成作では見えにくい制作途中の線や下描きが残るため、レオナルドが人物群をどのように組み立てようとしたのかを知る資料としても重要です。

『東方三博士の礼拝』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1481~1482年頃 ウフィツィ美術館所蔵
『東方三博士の礼拝』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1481~1482年頃 未完成 板 ウフィツィ美術館所蔵

4.『岩窟の聖母』

岩山と水に囲まれた薄暗い空間に、聖母マリア、幼子キリスト、幼い洗礼者ヨハネ、天使を配置した作品です。人物を三角形にまとめながら、視線と手の動きで互いを結び、輪郭を硬く切らずに光の中へ溶かしています。宗教画でありながら、岩石、水、植物、遠景までが人物と同じ重みで描かれている点にもレオナルドの自然観察が表れています。詳しくは『岩窟の聖母』とはをご覧ください。

『岩窟の聖母』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1483~1494年頃 ルーヴル美術館所蔵
『岩窟の聖母』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1483~1494年頃 油彩・キャンバス(板から移し替え) 199.5×122cm ルーヴル美術館所蔵
『岩窟の聖母』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1491/2〜1499年頃および1506〜1508年 油彩・板(ポプラ) 189.5×120cm ナショナル・ギャラリー所蔵
『岩窟の聖母』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1491/2〜1499年頃および1506〜1508年 油彩・板(ポプラ) 189.5×120cm ナショナル・ギャラリー所蔵

5.『白貂を抱く貴婦人』

ミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァの愛妾チェチリア・ガッレラーニを描いたとされる肖像画です。人物だけでなく、腕に抱かれた白貂も同じ方向へ身体をひねり、何かに反応した一瞬のような動きが生まれています。正面性の強い従来の肖像画とは異なり、顔、肩、動物の向きをずらして時間の流れを感じさせた点が印象的です。

『白貂を抱く貴婦人』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1490年頃 チャルトリスキ美術館所蔵
『白貂を抱く貴婦人』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1490年頃 油彩・板 54.8×40.3cm チャルトリスキ美術館所蔵

6.『ウィトルウィウス的人体図』

円と正方形の中に男性裸体を重ねて描いた素描で、古代ローマの建築家ウィトルウィウスが記した人体比例の考えを検討したものです。単なる「理想的な人体の図」ではなく、文章、測定、図像を一枚の紙上で組み合わせた研究ノートでもあります。美術と科学を別々の領域と考えず、観察と描画を通して理解しようとしたレオナルドの姿勢が端的に表れています。詳しくは『ウィトルウィウス的人体図』とはで解説しています。

『ウィトルウィウス的人体図』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1490年頃 アカデミア美術館素描版画室所蔵
『ウィトルウィウス的人体図』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1490年頃 ペン・インク・紙 34.3×24.5cm アカデミア美術館素描版画室所蔵

7.『最後の晩餐』

ミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院食堂に描かれた壁画です。キリストが「あなたがたのうちの一人が私を裏切る」と告げた直後を選び、十二使徒の反応を身振りと表情で描き分けました。人物は三人ずつのまとまりを作りながら中央のキリストへ視線と動きが集まり、室内の透視図法もキリストの頭部へ収束します。詳しくは『最後の晩餐』とはをご覧ください。

『最後の晩餐』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1495~1498年 サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院
『最後の晩餐』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1495~1498年頃 テンペラ・油彩併用 460×880cm サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ修道院

8.『モナ・リザ』

レオナルドの名を最も広く知らしめた肖像画です。モデルはフィレンツェの商人フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻リザ・ゲラルディーニと考えられています。目元や口元の輪郭を細い線で閉じず、明暗をなめらかに移行させることで、見る位置や光によって表情が変化するような印象を生みました。人物の背後に広がる幻想的な風景も、肖像を単なる個人の記録から大きく広げています。詳しくは『モナ・リザ』とはで解説しています。

『モナ・リザ』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1503~1519年頃 ルーヴル美術館所蔵
『モナ・リザ』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1503~1519年頃 油彩・板 ルーヴル美術館所蔵

9.『聖アンナと聖母子』

聖アンナの膝に聖母マリアが座り、その前で幼子キリストが子羊と戯れるという、三世代を一つの大きな動きにまとめた作品です。人物の身体は複雑に重なっていますが、視線と手足の方向がつながり、画面全体に連続したリズムが生まれています。背景の山岳風景まで含めて境界を柔らかくぼかす表現も晩年の特徴です。詳しくは『聖アンナと聖母子』とはをご覧ください。

『聖アンナと聖母子』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1503~1519年頃 ルーヴル美術館所蔵
『聖アンナと聖母子』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1503~1519年頃 油彩・板 ルーヴル美術館所蔵

10.『洗礼者聖ヨハネ』

暗闇から半身の聖ヨハネが浮かび上がり、右手の人差し指で上方を示しています。輪郭は煙のように柔らかく溶け、微笑みの意味も一つには定まりません。宗教画として必要な属性を最小限に絞りながら、視線、指、明暗だけで見る者の意識を画面の外へ導く作品です。レオナルド晩年のスフマートが最も濃密に感じられる一作でもあります。詳しくは『洗礼者聖ヨハネ』とはで解説しています。

『洗礼者聖ヨハネ』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1513~1516年頃 ルーヴル美術館所蔵
『洗礼者聖ヨハネ』 レオナルド・ダ・ヴィンチ 1513~1516年頃 油彩・板 ルーヴル美術館所蔵

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Q1. モネはなぜ同じ景色を何枚も描いたの?
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10作品を並べると見えるレオナルドの変化

初期の『受胎告知』では、細部を正確に描く工房的な技術と遠近法への関心が前面に出ています。『岩窟の聖母』や『白貂を抱く貴婦人』になると、人物同士の視線や身体の動き、光と影によって場面に時間が生まれます。『最後の晩餐』では多数の人物の心理を一つの空間に整理し、『モナ・リザ』『聖アンナと聖母子』『洗礼者聖ヨハネ』では輪郭そのものを柔らかく溶かしながら、人物の内面を想像させる表現へ進みました。

一方、『ウィトルウィウス的人体図』を間に置くと、こうした変化が絵画だけの問題ではなかったことも分かります。人体、光、遠近法、水、岩石、植物を観察し続けたことが、絵の中の身体や空間の説得力につながっています。レオナルドの代表作は、「画家」と「研究者」が別々に存在したのではなく、観察することと描くことが同じ活動だったことを示しています。

『サルバトール・ムンディ』『アンギアーリの戦い』はなぜ10選から外した?

『サルバトール・ムンディ』はレオナルド作品として広く知られる一方、作者帰属をめぐる議論が現在も続いています。また『アンギアーリの戦い』はフィレンツェのヴェッキオ宮殿のために構想された重要作ですが、レオナルド自身が描いた壁画は現存せず、模写や素描を通して知られています。本記事では「レオナルド自身の代表作を10点、作品画像とともに見る」という基準を優先し、この2作は10点から外しました。

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