
「雪の妖精」と呼ばれる鳥・シマエナガを描く原田愛さん。原田さんがパステルで描く、柔らかな雰囲気のシマエナガの絵を一目見ると、その可愛さや命の温かさに魅了されてしまいます。現在、2児の母となり、画家業を続けている原田さんにライターのイチノセイモコがインタビューしました。
シマエナガの画家、原田愛さんインタビュー「ハラダブルーでぬくもりを届けたい」
〈これまでの原田さんの軌跡〉
原田さんはパステルを用いて、雪国の動物や風景、特にシマエナガを描いています。福岡出身で、雪への憧れから雪の風景を描いていましたが、写真家・小原玲さんの作品をきっかけにシマエナガと出会い、描くようになりました。Yahoo!ニュースで取り上げられて、大きな反響を呼びました。
原田さんが描くシマエナガの絵は、青い背景でありながら暖かさを感じさせる「ハラダブルー」が特徴です。北海道でシマエナガを観察した経験から、生きることの素晴らしさをテーマに制作を行う原田さんは、「見る人に安らぎやぬくもりを与えたい」と語っています。

――本日は以前、Yahoo!ニュースで大きな反響を呼んだ、シマエナガの画家・原田愛さんにインタビューさせていただきます。原田さんの描くシマエナガの作品は、雪が舞うブルーの背景でありながら、不思議と温かさを感じさせます。この“温かさ”には、どんな秘密が隠されているのでしょうか?
本日はよろしくお願いいたします。雪の絵は普通、寒く感じますよね。でも、私は絵を見る方々に温かい気持ちになってもらいたいので、青の下地に隠し味として、黄色や赤色などの暖色を入れています。
ある時、私の描く青の色彩をみて、お客様が「これはハラダブルーだね」と言ってくれたんですよ。うれしかったです。それからずっと、その言葉を大切にしています。
――原田さんがシマエナガと出会ったきっかけは、何だったのでしょう?
私は福岡県筑上郡上毛町という、九州にある小さな町の出身です。そこでは雪がめったに積もらないんです。雪が積もると、子供はみんな大喜びします。そんな雪へのあこがれを子供の頃からずっと持っていました。シマエナガは、雪の降る北海道の鳥ですが、雪へのあこがれが、いつしかシマエナガへとつながっていったんだと思います。




きっかけは確か10年ほど前。当時、雪とアザラシの写真で著名な小原玲さんの写真作品がもともと好きで、拝見していた時にシマエナガと出会ったんです。「こんな鳥がいるんだ、可愛いな」と思って、それからシマエナガのことを調べ、雪を背景にして描きはじめました。
描きはじめた当初は、お客さんから「これ何? 実際にいるの?」とか「これは想像上の生き物?」と言われたんです。でも、その後、かわいい生き物として一時、流行になりましたよね。それからはお客様も「あ、シマエナガだね」という反応になっています。シマエナガを流行に導いた小原さんには直接お会いする機会がなかったのですが、会ってみたかったなと思います。

――シマエナガを描くために、北海道へ行かれるそうですね。
はい。はじめは都内の野鳥園を訪れ、エナガという鳥を観察していました。だけどお客さまから「シマエナガって北海道にしか生息していないんだよ」と教えられ、「行くしかない」と。シマエナガを観察できる場所は、札幌の大通公園や丸山公園などがあります。でも、泊りがけの取材で、幼い子を連れて何時間も粘るには厳しい所なんですよ。
――自然が相手だから、見られない時間も長いのではないですか?
そうですね。実際には「見られない時間」のほうが圧倒的に多いかもしれません。最初にシマエナガを見に行ったときは、軽い気持ちで出かけたのですが……甘かったなあと痛感しました。
シマエナガに出会えるのは、だいたい12月~2月くらいの間です。空港から、あまり遠くないバードウォッチングができるカフェを目指していたのですが、うっかりバス停をひとつ乗り過ごしてしまって。空港から近いので「少しくらい住宅がある場所だろう」と思っていたら、意外にも山道のような景色が続いていて驚きました。私は温暖な九州育ちなので、氷点下十数度という寒さは、想像以上でしたね。雪道を歩くことすらおぼつかなく、バス停をたった1駅ぶん歩くだけでもずいぶんと時間がかかってしまい、どうにかカフェに到着しました。
着いて間もなく、窓際に座っていたお客さんたちがザワザワし始めて。見てみると、枝に5羽のシマエナガが肩を寄せ合うようにとまって、餌をついばんでいたんです。本当に小さくて、ふわふわで……。夢中で見とれてしまい、ハッと気がついて慌てて写真を撮ろうとしたのですが、ピントを合わせる間もなく飛んでいってしまいました。
その日はその後、2~3時間ほど待ってみたのですが、結局、会えずじまいでしたね。
こんなふうに北海道にいる間に何度か挑戦して、ようやくシマエナガに会える、という感じでしたね。観察するときは、1ヶ所に2~3時間はじっと滞在しています。
――実際に見る前と見た後では、原田さんの中で変化や気づきがありましたか?
観察する前よりも、描く時に気持ちが入るようになりました。絵では、ふわふわした感じが以前より出せていると思います。やっぱり動いている姿を見ると、「ちょこまかして可愛いな」という印象ですね。シマエナガは寒い中、身を寄せ合う姿が可愛いです。そういった姿を私自身、家族や友達、姉妹などと重ねています。

自分の子が生まれてからは、2羽並んで描くときに「親子っぽいな」と連想して描く時も多いです。寄り添っているシマエナガは多分、成鳥なんでしょうけど、絵では家族っぽく大小のシマエナガを並べることもあります。1つの絵の中に描いたシマエナガの数は、最大で5、6羽くらい。今後はもっとたくさん並んだ大家族のシマエナガも描いてみたいですね。
――人物画を直接、描くのではなく、シマエナガに託して描いているのですね。作品にはどういった想いが込められているのでしょうか?
生きることの素晴らしさを描くことが、私のテーマなんです。ひとりでは非力でも、お互い頼り合うことで楽しさも生まれますよね。今、表現できるものの中では、シマエナガが1番しっくりきています。飽きないで、ずっと描いていられるんですよ。多分、これまでに500羽以上は描いたと思います。数えておけばよかったな。展覧会場に来られるお客様は、1羽1羽の表情を本当にじっくり見てくださいます。1羽に気持ちを込めて描くことで、見る人に「ほっとしてほしい」「自分を休ませてほしい」という想いがあります。そういう意味でも、シマエナガは自分に合っているのかな。
――原田さんはシマエナガを「パステル画」という技法で描かれていますね。パステル画は昔から描かれていたんでしょうか?
実は、美大にいた頃から卒業してしばらくの間は、油彩画を描いていたんですよ。多くの画家がいる中で、自分の個性を出して生きていくのはとても難しいことです。油彩画を描いていた頃は、いつもそう感じていました。そんな感じでアルバイトなどをしながら過ごしていたのですが、ある日、制作に煮詰まったので気分転換に掃除をしていたら、押し入れの中から懐かしい画材が出てきたんです。それは大学の卒業式の日に、就職する子から大量に譲ってもらった画材で、その中にパステルがありました。何気なく「気分転換に」と思い使ってみると、「ふわふわしたような独特のマチエール(絵肌の様子)が好きだな」と感じたんです。それからは、もっぱらパステルで描くようになりました。
――パステルのふわふわとした質感と、原田さんが描く、もふもふした生き物の絵はとても相性が良いですね。
ありがとうございます。でも、若いころは「様々な題材を描かなきゃ」と思っていた時期もあったんです。人物画も描いていたのですが、シマエナガやアザラシのような、もふもふとした可愛らしい題材を描くのも好きでした。その中でも、展覧会を重ね、様々な作品を発表していく中で、実際にお客さまから「これ、いいね」と反応をいただくのは可愛らしい作品が多かったんです。それで「私、可愛いものが好きなんだよな」と思い出して、「自分の個性はここにあるのかもしれない」と思いました。反響はわずかでしたが、人や社会と接する中で自分の個性に気づくことができたように思います。


――今後、しばらくは子育てしながらの作家業となりますね。その辺りは、どのように考えていますか?
私の画風としても、子育てをしている経験が良い方向に生きるんじゃないかな、と思っています。物理的に時間が取りづらいというのは出てくると思うんですけど、体力が続く限り、やりたいと思います。
(インタビュー時、原田さんは)ご妊娠中にも関わらず、長時間にわたってインタビューさせていただきました。これまでに経験された様々なことを、時間をかけてご自分の中に落とし込み、選択を重ねてこられたのだな、と感じました。ありがとうございました。これからも応援しています!
(聞き手・文/イチノセ イモコ)
原田愛さんのプロフィール

原田 愛 HARADA AI
1987 福岡県築上郡上毛町(旧:大平村)生まれ
2009 武蔵野美術大学油絵学科卒業
2014 個展 東京
2014 グループ展 福屋八丁堀本店
2015 グループ展 阪神梅田本店
2017 グループ展 東急百貨店たまプラーザ
2018 山本冬彦推薦作家による自画像展 Gallery ARK/神奈川
2019 個展 伊勢丹新宿店
2019 個展 銀座伊東屋
2020 グループ展 伊勢丹新宿店
2020 個展 伊勢丹浦和店
2021 グループ展 ヒルトピアアートスクエア/新宿
2024 個展 伊勢丹立川店
2024 個展 伊勢丹浦和店
他多数
原田愛さんの展覧会情報

「才都物語」
名古屋を舞台に四方のアーティストが集結
6月11日(水)~17日(火) 10時~19時〔最終日16時終了〕
名古屋栄三越 7階 特選画廊〈入場無料〉
原田愛・江崎栄花・ナンシー諸善・加納芳美
愛知にゆかりのある三英傑がかつて日本を牽引しました。そして今、愛知を中心に四方から集まった才能豊かなアーティストたちが、名古屋を舞台に新たなアートの物語を紡ぎます。日本画家・木彫コラージュ作家・パステル画家・アクリル画家――それぞれの個性が響き合う、フレッシュな展覧会をどうぞお楽しみください。
コメント