風景画とは?世界の有名な風景画・名画と歴史をわかりやすく解説

風景画とは、山や川、海、田園、森林、街並みなど、人を取り巻く景観を主要な主題として描いた絵画です。今ではごく自然なジャンルに見えますが、美術の歴史をたどると、風景は長いあいだ神話や宗教、人物の物語を支える「背景」として扱われてきました。そこから自然そのものが主役となり、やがて光、天候、画家の感情までを映す表現へ変わっていきます。

ただし、風景画の歴史は西洋だけで一本につながるものではありません。中国では西洋よりはるかに早く山水画が高度に発達し、日本でも山水画や大和絵、名所絵、浮世絵を通じて独自の風景表現が育ちました。西洋では16~17世紀に風景画が独立したジャンルとして存在感を増し、19世紀にはロマン主義、バルビゾン派、印象派、ポスト印象派へと大きく展開します。世界の名画を並べて見ると、人が「風景を見る」という行為そのものが時代ごとに変化してきたことがわかります。

風景画とは|自然・都市・海を主題にした絵画

風景画は英語でlandscape painting、フランス語でpeinture de paysage、ドイツ語でLandschaftsmalereiなどと呼ばれます。山岳や森林、川、田園を描く作品だけでなく、海景、都市景観、雪景色、港、庭園なども広い意味で風景画に含まれます。重要なのは、画面の中で風景が単なる舞台装置ではなく、作品の意味や視覚的な魅力を担う中心的な存在になっていることです。

たとえば、人物が描かれていても、その人物より空や地形、光、季節の変化が画面全体を支配していれば、風景画として理解されることがあります。逆に、広い自然が描かれていても、主題が聖書や神話の人物であり、風景が物語の背景にとどまる場合には、歴史画や宗教画として分類されることがあります。ジャンルの境界は固定的ではなく、時代や地域によっても異なります。

主な種類描かれるもの
山岳・田園風景山、森、川、農地、村落など
海景画海、船、港、海岸、波など
都市景観街路、建築、広場、運河など
名所絵土地を象徴する景観や旅の名所
想像の風景実景を基にしながら再構成した景観、理想景、幻想的風景など

西洋の絵画ジャンルがどのように変化したかを大きな流れで見る場合は、西洋美術史とは|古代から現代までの流れをわかりやすく解説も合わせて読むと、風景画の位置づけがつかみやすくなります。

風景画の歴史|中国では西洋より早く自然そのものが主役になった

中国の山水画|人間より大きな自然の秩序を描く

世界の風景表現を考えるうえで欠かせないのが、中国の山水画です。中国では山や水が単なる背景ではなく、自然の秩序や世界観を表す重要な主題として早くから発達しました。特に五代から北宋にかけて、荊浩、関仝、董源、范寛、郭熙らが山水画の表現を大きく深めます。

范寛の『谿山行旅図』では、画面上部を巨大な岩山が占め、その下を旅人と荷を運ぶ動物たちが小さく進みます。人間を中心に自然を眺めるのではなく、人間が巨大な自然の中に置かれている構図です。遠近は一点透視図法で統一されず、視線が山道や水の流れをたどりながら画面を上へ進むことで、実際に山中を歩くような空間が生まれています。

『谿山行旅図』范寛 11世紀初頭頃 絹本墨画淡彩 206.3×103.3cm 国立故宮博物院所蔵
『谿山行旅図』范寛 11世紀初頭頃 絹本墨画淡彩 206.3×103.3cm 国立故宮博物院所蔵

西洋では風景は長く物語の舞台だった

古代ローマの壁画には庭園や港、田園を描いた風景表現が見られますが、中世ヨーロッパでは宗教的な人物や出来事が絵画の中心となり、自然は主に物語を示すための背景として使われました。ルネサンス期になると、遠近法や大気の表現が発達し、背景の山、川、都市、空にも現実感が与えられていきます。

16世紀のピーテル・ブリューゲル(父)は、季節と人々の暮らしを大きな風景の中に組み込んだ作品を残しました。『雪中の狩人』では、狩りから戻る人々よりも、白く覆われた谷、凍った池、遠い山並み、冬の空気が画面を支配します。人間の営みが自然の一部として見える点で、西洋風景画が独立へ向かう重要な段階を示しています。

『雪中の狩人』ピーテル・ブリューゲル(父) 1565年 油彩・板 117×162cm ウィーン美術史美術館所蔵
『雪中の狩人』ピーテル・ブリューゲル(父) 1565年 油彩・板 117×162cm ウィーン美術史美術館所蔵

17世紀オランダ|風景画が独立した人気ジャンルへ

17世紀のオランダでは、風景画が大きく発展しました。宗教画や王侯の注文だけでなく、市民が絵画を購入する市場が広がり、画家たちは海景、冬景色、運河、都市、森林、牧草地などを専門的に描くようになります。低い地平線と広い空、雲の動き、水面、風車といった土地固有の景観も、重要な主題になりました。

ヤーコプ・ファン・ロイスダールの『ウェイク・ベイ・ドゥールステーデの風車』では、巨大な風車が暗い雲を背に立ち、手前をレク川が流れています。低地、水、広い空、風車というオランダらしい要素が一つの画面に集約されています。実景を描きながら、雲と光、建物の配置を強く組み立てた構成には、単なる地理的記録を超えた風景画の力があります。

『ウェイク・ベイ・ドゥールステーデの風車』ヤーコプ・ファン・ロイスダール 1668~1670年頃 油彩・キャンバス 83×101cm アムステルダム国立美術館所蔵
『ウェイク・ベイ・ドゥールステーデの風車』ヤーコプ・ファン・ロイスダール 1668~1670年頃 油彩・キャンバス 83×101cm アムステルダム国立美術館所蔵

同じ17世紀には、クロード・ロランやニコラ・プッサンが、古代世界を思わせる建築や人物を配した理想的な風景を描きました。実際の土地を観察した風景と、画家が秩序立てて再構成した理想景という二つの方向は、その後のヨーロッパ風景画に長く影響を与えます。

「へ~」「そうなんだ!」朝の1分、ちょっと朝活

Q1. モネはなぜ同じ景色を何枚も描いたの?
Q2. ゴッホの『ひまわり』は何枚あるの?
Q3. 印象派という名前は誰が付けたの?

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19世紀前半|ロマン主義とイギリス風景画が自然の意味を変えた

フリードリヒ|風景に人間の内面を重ねる

18世紀末から19世紀前半のロマン主義では、自然は美しい眺めであるだけでなく、人間の感情や畏れ、孤独、崇高さを映す場になりました。カスパー・ダーヴィト・フリードリヒの『雲海の上の旅人』では、後ろ姿の人物が岩山の上に立ち、霧に覆われた山々を見つめています。鑑賞者は人物と同じ方向を向くため、眼前の風景を見ると同時に、そこに立つ人の心理を想像することになります。

『雲海の上の旅人』カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ 1818年頃 油彩・キャンバス 94.8×74.8cm ハンブルク美術館所蔵
『雲海の上の旅人』カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ 1818年頃 油彩・キャンバス 94.8×74.8cm ハンブルク美術館所蔵

ロマン主義の絵画では、嵐、海、山、廃墟、夕暮れなどがしばしば重要な主題になりました。自然を理性で整理できる対象としてだけでなく、人間を圧倒する存在として描いたことが特徴です。時代背景や代表作はロマン主義とは|特徴と代表画家・作品をわかりやすく解説でも紹介しています。

コンスタブルとターナー|空気と天候を描く

イギリスではジョン・コンスタブルとJ.M.W.ターナーが風景画を大きく変えました。コンスタブルは故郷サフォークの景観を繰り返し観察し、雲、湿度、水面、樹木を具体的に描きました。『干草車』は、ストゥア川沿いのフラットフォードの景観を基にした大作です。田園の何気ない日常を、歴史画に匹敵する大画面へ押し上げた点も重要でした。

『干草車』ジョン・コンスタブル 1821年 油彩・キャンバス 130.2×185.4cm ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵
『干草車』ジョン・コンスタブル 1821年 油彩・キャンバス 130.2×185.4cm ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵

一方のターナーは、光、霧、雨、蒸気、炎といった形の定まらない現象を追究しました。後期作品では輪郭が溶け、光と色彩そのものが画面を動かしているように見えます。コンスタブルの観察とターナーの光の探究は、フランスの画家たちにも強い刺激を与え、19世紀後半の新しい風景画へつながっていきます。

日本の風景画|山水画から名所絵、浮世絵へ

日本では、中国から伝わった山水画の伝統と、大和絵に見られる日本の季節や名所の表現が長く共存しました。江戸時代になると、街道の整備や旅の広がり、出版文化の発達とともに、名所を描いた浮世絵が多くの人々に親しまれるようになります。風景が一部の支配層のための絵画だけでなく、版画として広く流通した点も大きな特徴です。

葛飾北斎の『冨嶽三十六景』はその代表例です。『神奈川沖浪裏』では、画面を覆う巨大な波の向こうに富士山が小さく置かれます。波、舟、富士という距離の異なる要素を大胆に重ねることで、現実の眺望をそのまま写すのではない、緊張感のある風景が生まれました。

『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』葛飾北斎 1830~1832年頃 多色木版・紙 24.4×35.7cm メトロポリタン美術館所蔵
『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』葛飾北斎 1830~1832年頃 多色木版・紙 24.4×35.7cm メトロポリタン美術館所蔵

北斎や歌川広重の浮世絵は19世紀後半のヨーロッパにも渡り、構図、色面、切り取り方などが多くの画家に新鮮な刺激を与えました。浮世絵そのものの成り立ちは浮世絵とは|江戸の暮らしを映した日本美術を代表作でわかりやすく解説、西洋美術への影響はジャポニスムとは|浮世絵がモネ・ゴッホら西洋美術に与えた影響で詳しくたどれます。

バルビゾン派から印象派へ|目の前の自然と光が主役になる

19世紀フランスでは、コロー、テオドール・ルソー、ミレーらが都市を離れ、フォンテーヌブローの森や農村の風景を重要な主題にしました。いわゆるバルビゾン派の画家たちは、自然を古典的な理想景に整えるだけではなく、実際の土地、木々、空、農民の生活へ目を向けます。この流れは、戸外で変化する自然を観察した印象派へつながる重要な橋渡しとなりました。詳しくはバルビゾン派とは|ミレー・コローから印象派へつながる自然と農民の絵画で解説しています。

印象派の画家たちは、何が描かれているかだけでなく、その瞬間に光がどう見えるかを重視しました。クロード・モネの『印象・日の出』では、ル・アーヴル港の建物や船は細部まで描き込まれず、霧の中の青灰色と、オレンジ色の太陽と反射が画面の印象を決定します。1874年の第1回印象派展に出品されたこの作品の題名が、「印象派」という呼称が広まるきっかけになりました。

『印象・日の出』クロード・モネ 1872年 油彩・キャンバス 50×65cm マルモッタン・モネ美術館所蔵
『印象・日の出』クロード・モネ 1872年 油彩・キャンバス 50×65cm マルモッタン・モネ美術館所蔵

モネはその後も積みわら、ポプラ並木、ルーアン大聖堂、睡蓮など同じ主題を時間や天候を変えて繰り返し描きました。風景を固定された場所としてではなく、光によって絶えず変化する現象として捉えたのです。印象派全体の特徴は印象派とは|モネ・ルノワール・ドガらの特徴と代表作品を解説、モネの生涯と連作はモネとは|生涯と代表作を解説、睡蓮が見られる日本の美術館21選で紹介しています。

ゴッホとセザンヌ|風景が心と構造の表現になる

19世紀末になると、画家は目の前の風景を忠実に再現することからさらに離れ、自分の感情や画面の構造を強く表すようになります。フィンセント・ファン・ゴッホの『星月夜』は、サン=レミの療養院の窓から見た自然を出発点にしながら、村や糸杉、山並み、渦巻く星空を再構成した作品です。観察と想像の双方から生まれた風景であり、夜空は現実の記録を超えて感情を帯びています。

『星月夜』フィンセント・ファン・ゴッホ 1889年 油彩・キャンバス 73.7×92.1cm ニューヨーク近代美術館所蔵
『星月夜』フィンセント・ファン・ゴッホ 1889年 油彩・キャンバス 73.7×92.1cm ニューヨーク近代美術館所蔵

『星月夜』の制作背景、描かれた星や村、糸杉の意味はゴッホ『星月夜』とは|描かれた場所・意味・見どころを解説、ゴッホの生涯全体はゴッホとは|どんな画家?生涯と代表作「ひまわり」「星月夜」をわかりやすく解説で詳しく知ることができます。

同じポスト印象派でも、ポール・セザンヌは別の方向へ進みました。故郷プロヴァンスのサント=ヴィクトワール山を繰り返し描き、山、樹木、家、空を色の面と筆触によって組み立てました。自然を感情の激しさへ変えたゴッホに対し、セザンヌは風景の中に安定した構造を見いだそうとしたといえます。ポール・セザンヌとは|近代絵画の父と呼ばれたポスト印象派の画家セザンヌ『サント=ヴィクトワール山』とは|連作の意味と構図を解説を合わせて見ると、その変化がよくわかります。

世界の有名な風景画・名画8選

風景画の歴史を代表する8作品を並べると、自然の意味が時代によって変化してきたことが一目でわかります。中国の山水画では人間を包み込む自然の秩序が描かれ、17世紀オランダでは身近な土地が独立した主題となり、19世紀には自然が感情、光、時間の表現へと広がりました。

作品画家制作年風景画史での見どころ
『谿山行旅図』范寛11世紀初頭頃巨大な自然の中に人間を置く北宋山水画の代表作
『雪中の狩人』ピーテル・ブリューゲル(父)1565年季節と人々の暮らしを広大な景観の中に統合
『ウェイク・ベイ・ドゥールステーデの風車』ヤーコプ・ファン・ロイスダール1668~1670年頃17世紀オランダ風景画の成熟を示す
『雲海の上の旅人』カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ1818年頃自然と人間の内面を重ねたロマン主義の象徴
『干草車』ジョン・コンスタブル1821年身近な田園と空気、天候を大画面の主題にした
『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』葛飾北斎1830~1832年頃波、舟、富士を大胆な遠近で組み合わせた名所絵
『印象・日の出』クロード・モネ1872年輪郭より光と大気の一瞬を重視
『星月夜』フィンセント・ファン・ゴッホ1889年観察した自然を感情と想像によって再構成

人物画や宗教画なども含めて世界的に知られる作品を幅広く見たい場合は、世界の有名な絵画・名画を解説|一度は見たい代表作品も参考になります。

風景画の見方|名画が面白くなる5つのポイント

1.どこから見ているか

最初に見ると面白いのが視点の高さです。高い場所から谷を見下ろすのか、地面に近い位置から山を見上げるのかで、同じ景観でも印象は大きく変わります。『谿山行旅図』のように視点が移動していく画面と、西洋の遠近法で一つの視点を強く感じさせる画面を比べると、風景の組み立て方の違いが見えてきます。

2.空と光がどれだけ画面を占めているか

17世紀オランダ風景画や19世紀のコンスタブル、ターナー、印象派では、空と光が作品の性格を決めます。晴天、曇天、霧、夕暮れ、夜では、同じ場所でも色彩と空間の感じ方が変わります。風景画では「何があるか」だけでなく、「どんな空気の中にあるか」を見ることが重要です。

3.筆触と色が現実どおりか

近づいて見ると、モネの水面やゴッホの夜空は、写真のように滑らかではありません。短い筆触、厚い絵具、補色の対比などが、遠くから見たときに光や運動へ変わります。風景画は対象の写実だけでなく、絵具そのものの使い方を見ると画家ごとの差がはっきりします。

4.人物がどれくらい大きく描かれているか

人物の大きさは、画家が自然と人間の関係をどう考えたかを示します。范寛では旅人が山に比べて極端に小さく、フリードリヒでは一人の人物が鑑賞者を風景へ導きます。ブリューゲルやコンスタブルでは、働く人々が風景の中の日常として溶け込んでいます。

5.実景か、再構成された風景か

風景画は目の前の景色をそのまま写したものとは限りません。複数の場所を組み合わせたり、建物や山の位置を変えたり、記憶や想像を加えたりすることがあります。ゴッホの『星月夜』のように、実際の観察と想像が一枚の中で結びついた作品もあります。現実との違いは「間違い」ではなく、画家が何を強調したかったのかを知る手がかりになります。

風景画を飾るときに見るポイント

風景画は、室内に実際には存在しない遠景や空の広がりを持ち込めるところにも魅力があります。横長の作品は視線が左右へ広がりやすく、縦長の作品は山や樹木、空へ視線を導きます。色彩も重要で、青や緑が多い作品は空間に落ち着きを与えやすく、夕景や紅葉のような暖色の風景は壁面の印象を強く変えます。

作品を選ぶときは、題材だけでなく、絵そのものの縦横比と壁面の余白を見ると合わせやすくなります。油彩や日本画で使われる号数と実寸の関係は絵画のサイズ・号数一覧|F・P・M・Sの寸法をわかりやすく解説で確認できます。

まとめ|風景画は「景色の記録」から光・感情・世界観の表現へ広がった

風景画は、山や川、海、街並みを描いた絵というだけではありません。中国の山水画では人間を包む自然の秩序が表され、西洋では長く背景だった風景が16~17世紀に独立性を高めました。19世紀にはフリードリヒが自然へ人間の内面を重ね、コンスタブルやターナーが天候と光を追究し、北斎は大胆な構図で名所を新しく見せました。

さらにモネは一瞬の光と大気を、ゴッホは感情と想像を、セザンヌは自然の構造を風景の中に見いだしました。同じ山や海を描いても、作品がまったく違って見えるのは、風景画が「そこに何があるか」だけでなく、「画家には世界がどう見えたか」を映すジャンルだからです。

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