東京国立近代美術館の所蔵作品展(常設展)「MOMATコレクション」とは|主任研究員・成相肇さんに聞く見どころ

東京国立近代美術館は、日本で最初の国立美術館として1952年に創設された
東京国立近代美術館は、日本で最初の国立美術館として1952年に創設された。現在の建物は、1969年に京橋から竹橋に移転した際、建築家の谷口吉郎により設計されている。

東京・竹橋にある東京国立近代美術館で、常設展として親しまれている所蔵作品展が「MOMATコレクション」です。

東京国立近代美術館は、1952年の開館以来、約14,000点の作品を収集してきました。MOMATコレクションでは、その膨大な所蔵作品の中から、絵画、版画、彫刻、写真、映像などを幅広く紹介し、明治以降現代までの日本美術の流れを4階から2階までの全12室でたどることができます。

いわゆる常設展として気軽に訪れやすい一方で、出品作品や展示テーマは会期ごとに変わります。重要文化財や人気作家の作品も、保存上の理由などで常に展示されているわけではありません。今回は、アートコンサルタントの亘理隆による取材をもとに、東京国立近代美術館の主任研究員・成相肇さんに伺ったMOMATコレクションの見どころと、忙しい現代人のために「60分で回る」ためのポイントを紹介します。

  1. 東京国立近代美術館所蔵作品展「MOMATコレクション」インフォメーション
  2. MOMATコレクションとは?ほぼいつでも見られる所蔵作品展│代表作品と60分で辿る日本の近現代美術
  3. 必見! まずは、4階1室 ハイライトのコーナーへ
  4. 藤田嗣治も小倉遊亀もパウル・クレーも一緒に展示
  5. 実は、草間彌生も杉本博司も村上隆も奈良美智もあります
  6. 横山大観《生々流転》や東山魁夷《道》も見たかったのですが、今回はどこにも展示していませんでした
  7. 東京国立近代美術館のメインターゲットは?
  8. 「現代美術は、わからない。面白くない」という声もあります
  9. 所蔵作品展MOMATコレクション 2026年5月26日(火)-9月13日(日)
  10. 展示する作品は、どう選んで、どう並べているのでしょうか
  11. 美術館にいる研究員は、どんな仕事をされているのでしょうか
  12. 現代アート作品は、どのように判断して収集しているのですか
  13. ジェンダーバランスや地域性を意識していますか
  14. AIは、美術館の活動に影響を与えるのでしょうか
  15. ここも見て欲しい│展示室で少し休むなら「眺めの良い部屋」へ
    1. 4階『眺めの良い部屋』
    2. 4階→3階の階段吹き抜け部分/3階7室脇小部屋 「建物を思う部屋」
  16. 2階 アントニー・ゴームリー《反映/思索》2001年 鋳鉄 
  17. よくある質問
    1. MOMATコレクションは常設展ですか?
    2. MOMATコレクションの所要時間はどのくらいですか?
    3. 初めて行く場合、どこから見るのがおすすめですか?
    4. 有名作品はいつでも見られますか?
    5. チケットは事前予約が必要ですか?
    6. MOMATコレクションだけで小企画も見られますか?
    7. 現代美術が苦手でも楽しめますか?
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東京国立近代美術館所蔵作品展「MOMATコレクション」インフォメーション

会場東京国立近代美術館所蔵品ギャラリー(4〜2階)
住所
〒102-0091 東京都千代田区北の丸公園3-1
・東京メトロ東西線「竹橋駅」1b出口より徒歩3分
・東京メトロ東西線・半蔵門線・都営新宿線「九段下駅」4番出口より徒歩15分
・東京メトロ半蔵門線・都営新宿線・三田線「神保町駅」A1出口より徒歩15分
東京駅や大手町方面からのアクセスもよく、皇居や北の丸公園とあわせて訪れやすい美術館です。

会期「MOMATコレクション」は、1年を数回の会期に分けて展示替えを行っています。お出かけになる日にどんな作品が並んでいるかは、東京国立近代美術館の出品予定作品ウェブサイトで事前に確認することができます。
東京国立近代美術館の出品予定作品ウェブサイト
※本記事では、2026年5月26日(火)〜9月13日(日)会期の展示作品を中心に取材を行いました。
※会期中、一部作品の入れ替えがあります。
休館日月曜日(祝休日は開館し翌平日休館)、展示替期間、年末年始
※2026年7月20日(月・祝)は開館、7月21日(火)は休館
開館時間10:00〜17:00(金・土曜は10:00〜20:00)
※入館は閉館30分前まで
※11:00からは、MOMATガイドスタッフによる所蔵品ガイドが行われています。ガイドスタッフと一緒に数点の作品を対話しながら鑑賞する気軽に参加できるプログラムです。参加費は無料ですが、MOMATコレクションの観覧券が必要です。
※開催日、時間は変更になる場合があります。詳細は東京国立近代美術館のホームページをご確認ください。
観覧料一般500円(400円)、大学生250円(200円)
※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込み。
※金曜・土曜は20:00まで開館しており、17:00以降は割引料金で入館できるため、仕事帰りや夕方の鑑賞にも向いています。
※5時から割引(金・土曜)や無料観覧などの詳細については、東京国立近代美術館のホームページをご覧ください。
東京国立近代美術館 チケット・観覧料
チケット当日窓口でも購入できますが、公式オンラインチケット予約で事前購入することもできます。
公式オンラインチケット予約
所要時間(目安)主要作品を中心に見るなら1時間ほど、各室のテーマをじっくり追うなら1時間半ほどをみておくとよいでしょう。
主催東京国立近代美術館

MOMATコレクションは、4階からスタートして、3階、2階へと降りながら作品を鑑賞する導線になっています。 
ただし、所蔵作品展といっても、同じ作品がいつでも並んでいるわけではありません。会期ごとに出品作品は入れ替わります。見たい作品がある場合は、来館前に東京国立近代美術館の公式サイトで出品作品を確認しておくと安心です。

MOMATコレクションとは?ほぼいつでも見られる所蔵作品展│代表作品と60分で辿る日本の近現代美術

東京国立近代美術館正面展覧会案内看板(2026年6月9日撮影)
東京国立近代美術館正面展覧会案内看板(2026年6月9日 筆者撮影)

日本で美術館というと、借りてきた作品を展示する場所というイメージがないだろうか。しかし、本来はコレクションがあるところが美術館だ。例えば、コレクションを持たず、展覧会事業などをメインに活動している国立新美術館(東京・六本木)は、英語では “The National Art Center, Tokyo”と表記されている。

一方、東京国立近代美術館の英語表記は、“The National Museum of Modern Art, Tokyo”とあり、ミュージアム(美術館)であることがわかる。同館では、19世紀末から現在に至る、日本の美術作品を中心に約14,000点をコレクションし、英語表記に基づきMOMAT(モマット)という略称・愛称を使っている。

休館日や展示替期間を除き、ほぼいつでも見られる所蔵作品展「MOMATコレクション」は、重要文化財や教科書にもよく登場する代表的な作品を含む約200点が、4階から2階までの12部屋に展示されている。一般チケット500円で、近代以降の日本における美術の流れを一度に辿ることができる、嬉しい展覧会だ。

東京国立近代美術館4~2F ELV前館内案内図
東京国立近代美術館4~2F エレベーター前館内案内図

必見! まずは、4階1室 ハイライトのコーナーへ

1室 ハイライト展示風景(2026年6月9日撮影)
1室 ハイライト展示風景(2026年6月9日 筆者撮影)

多忙な人にも気軽に美術館に行って欲しいと思い、「60分で辿る」をテーマに決めた。さて、実際に「MOMATコレクション」を見に行ったら、それぞれの部屋に見どころがあり、すべての部屋を見終わらないうちに2時間を過ごしてしまった。

よく考えてみれば、60分で約200点の作品を鑑賞するなど無謀である。階や部屋の移動時間を無視しても、1点あたり18秒。もちろん本のページをパラパラとめくるように作品を見るのも一つの方法としてあり得る。また、各部屋を足早に巡りながら、興味を持った部屋や作品だけをしっかり見るという方法もあるにはある。

今回、東京国立近代美術館の主任研究員・成相肇さんにMOMATコレクションの魅力と美術館のお仕事についてお話を伺った。

まず、4階・1室「ハイライト」について語ってくれた。

「当館の所蔵作品展は、12の部屋に特集展示の部屋を併せて13もあります。来館される方は、どうしても会期が短期間で、広報露出の多い企画展を先にご覧になります。企画展を見た後ではくたびれるという声もありましたので、さくっと少ない時間でも楽しめる部屋がハイライトです」

ハイライトの部屋には、今回18点の作品が展示してあるが、約14,000点もある作品から、どうやって選ぶのだろうか。日本を代表する国立美術館だから、展示したい名品はたくさんあるに違いない。

「ハイライトについては、テーマ性よりも代表作を集めるという意図に重点を置いています。日本の絵画、そして西洋の作品も含めて、特に見ていただきたい当館を代表する作品を展示しています」

つまり、見る時間があまりない人でも、MOMATコレクションの美味しいところを味わうには、まず1室「ハイライト」の作品を見れば、記憶に残る1点と出会える可能性が高いということだ。

ハイライトの展示から、以下に、筆者が気になった作品をいくつか挙げる。

  • 藤田嗣治 《五人の裸婦》1923年 油彩・キャンバス
  • パウル・クレー 《花ひらく木をめぐる抽象》1925年 油彩・厚紙
  • 三岸光太郎《雲の上を飛ぶ蝶》1934年 油彩・キャンバス
  • 安井曾太郎 《金蓉》1934年 油彩・キャンバス
  • 小倉遊亀 《浴女 その一》1938年 紙本彩色
  • 奈良美智 《Harmless Kitty》 1994年 アクリリック・綿布
三岸好太郎《雲の上を飛ぶ蝶》1934年、油彩・キャンバス、91.5×60.6cm、東京国立近代美術館蔵
三岸好太郎《雲の上を飛ぶ蝶》1934年、油彩・キャンバス、91.5×60.6cm、東京国立近代美術館所蔵
安井曽太郎《金蓉》1934年、油彩・キャンバス、96.5×74.5cm、東京国立近代美術館蔵
安井曽太郎《金蓉》1934年、油彩・キャンバス、96.5×74.5cm、東京国立近代美術館所蔵 出典:国立美術館所蔵作品総合目録検索システム

藤田嗣治も小倉遊亀もパウル・クレーも一緒に展示

明治以降、西洋絵画が入ってくることで、紙本や絹本の支持体に岩絵具や墨など、明治より前から使っていた素材で描く絵を日本画、キャンバスの支持体に油彩を使うなど、西洋絵画の素材で描いた絵を洋画と区別するようになった。ハイライトでは、どちらも同じコーナーに展示してある。近代美術では日本画と洋画を区別していたが、同じコーナーに一緒に展示することはどうなのだろうか。

「一緒に展示すること自体の難しさはあります。掛け軸や屏風は、露出展示がとても難しいので、それ専用のガラスケース内に展示せざるを得ません。したがって屏風の隣に油絵を掛けるということ自体に技術的・物理的に困難が伴いますが、時代を共有していれば、作家たちが見ているものも経験しているものも近いわけです。技法的にまったく違っていても、並べれば時代の意識が見えてきます」

日本画、洋画と区別せずに、画家たちが何を表現したかったか、そのためにどう描いたのかを見るほうが、絵に親しめるということだ。

パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》1925年、油彩・厚紙、39.3×39.1cm、東京国立近代美術館蔵
パウル・クレー《花ひらく木をめぐる抽象》1925年、油彩・厚紙、39.3×39.1cm、東京国立近代美術館所蔵 出典:国立美術館所蔵作品総合目録検索システム

日本の近代美術館なのに、ここではポール・セザンヌやパウル・クレーなど外国絵画もコレクションしている。国立では西洋美術館もあるのに、なぜ外国絵画もあるのだろうか。

「国立西洋美術館の所蔵作品は、ベースに松方コレクションがあり、その文脈を広げています。一方、当館は日本の近代美術史が前提にありますので、それを説明するために必要な文脈を持っている作品を集めます」

明治に西洋文化が一気に流れ込んできた日本において、美術家たちもまた、西洋の美術と本格的に出会う。2室以降各部屋の展示を時代順に見ていくと、西洋美術の表現に出会い、感動したり影響を受けたりしながらも、自分たちの美術のあり方を模索した美術家たちの軌跡を辿ることができて興味深い。MOMATの西洋絵画コレクションを見ることで、その背景を探るヒントがみつかるかもしれない。

実は、草間彌生も杉本博司も村上隆も奈良美智もあります

前回のハイライトには、村上隆と奈良美智の作品があり、今回も引き続き、奈良美智の作品が展示してあった。また、10室には企画展が開催中の杉本博司の作品が、12室には草間彌生の作品が展示されている。近代美術館の響きから、明治期から第二次世界大戦終戦頃までのコレクションを思い描いていたが、現役の現代美術家の作品も収蔵している。

成相さんが説明してくれた。

「『近代』という言葉は、モダン(=modern)の翻訳にあたるわけですが、カタカナで『モダン』と表記すると新しい印象、『近代』というとやや過去の印象を一般に持たれるようです。当館は、館名に『近代』と冠しているので『近代』と言い続けますが、『モダン』と同じように『直近の』というニュアンスでとらえていただければよいと思います。収集は常にシフトしながら同時代にまで目配せし、現時点では2020年代の作品も所蔵しています」

「直近の」といえば、10室には企画展「杉本博司 絶滅写真」(2026年6月16日‐9月13日)に連動して、杉本博司の同館所蔵作品と創作ノートが展示されているし、11室、12室には2000年以降に制作された作品もある。

横山大観《生々流転》や東山魁夷《道》も見たかったのですが、今回はどこにも展示していませんでした

MOMATコレクションには、他にもお宝的な作品が多数ある。今回は出品されていないが、横山大観《生々流転》、東山魁夷《道》なども見てみたいという、来館者ニーズがあるのではないだろうか。

横山大観《生々流転》(部分)1923年、墨画・絹本、画巻、55.3×4070.0cm、重要文化財、東京国立近代美術館蔵
横山大観《生々流転》(部分)1923年、墨画・絹本、画巻、55.3×4070.0cm、重要文化財、東京国立近代美術館所蔵 出典:国立美術館所蔵作品総合目録検索システム
横山大観《生々流転》(部分)1923年、墨画・絹本、画巻、55.3×4070.0cm、重要文化財、東京国立近代美術館蔵
横山大観《生々流転》(部分)1923年、墨画・絹本、画巻、55.3×4070.0cm、重要文化財、東京国立近代美術館所蔵 出典:国立美術館所蔵作品総合目録検索システム
横山大観《生々流転》(部分)1923年、墨画・絹本、画巻、55.3×4070.0cm、重要文化財、東京国立近代美術館蔵
横山大観《生々流転》(部分)1923年、墨画・絹本、画巻、55.3×4070.0cm、重要文化財、東京国立近代美術館所蔵 出典:国立美術館所蔵作品総合目録検索システム

「いわゆる紙ものといわれる、日本画、版画、水彩、ドローイングは、作品保存の観点から当館では年間8週間を原則に展示替えを行っています。鑑賞機会は限られますが、特別感があるとも言えます。いつでも見られるわけではないという意味も込めて、当館では常設展ではなく、コレクション展と呼んでいます」

「展示のテーマに選ばれなかったから展示できないというだけではなく、他館に貸出しを行っていたり修復中であったりして、当館ではお見せすることができない作品もありますね。」

なるほど。今回のMOMATコレクションは9月13日までだが、小倉遊亀や北野恒富など日本画家の作品は、会期中7月20日で掛け替えになっていた。その代わり、7月22日からは、人気作品、福田平八郎《雨》などが見られる。また、毎年恒例の「美術館の春まつり」には、川合玉堂《行く春》が公開されている。

藤田嗣治《五人の裸婦》は、今回約3年ぶりにMOMATコレクションに戻ってきたそうだ。西洋美術の文脈を意識しながら、「乳白色の肌」と呼ばれた独自性を出し、フランスでも認められた作品の一つ。藤田嗣治生誕140年の本年、ぜひ見て欲しい逸品だ。

その時だから、見られる作品もあれば、見られない作品もある。どうしても見たい作品があれば、こまめにホームぺージを要チェックだ。

東京国立近代美術館のメインターゲットは?

美術館は、あらゆる人に開かれており、当然、美術の研究者など専門家だけが対象ではない。例えば会場の解説は、どんな来館者をイメージしているのだろうか。メインターゲットはあるのだろうか。

「広報ではターゲットという言葉が使われることもありますが、企業文化で言われるようなターゲットは設けていません。国立美術館という公共的な施設ですから、対象となる地域も限定されていない以上、どこに特化して来ていただきたいということはありません。ただ、会場の解説は、なるべくわかりやすいもの、そしてごく一般的な解説ではなく、ちょっとひねったような解釈を心がけています」

自分たちが研究している作品なので、書きたいことはたくさんあると推測されるが、その気持ちは抑えて、来館者を思い浮かべて書いているのだろう。

例えば、小倉遊亀《浴女 その一》の解説。「女性が描くと裸婦でもエッチな感じがしない。そういう感想が聞こえてきそうですが、そもそも裸婦はエッチに(欲情的、煽情的に)描こうとしなければ、ただの裸の人間に過ぎません。(以下略)」

確かにひねりが効いている。浴女を見ても、欲情しない理由がわかった。画家が表現したかったのは、別のもののようだ。

高村光太郎《手》1918年頃、ブロンズ、38.6×14.5×28.7cm、東京国立近代美術館蔵。

3室に展示されている高村光太郎のブロンズ彫刻《手》の解説では、来館者にその手と同じポーズを取ってみてください、とある。実際にやってみると難しい。

10室 菱田春草《四季山水》は、約9.5mの絵巻がガラスケース内に展示されているが、解説はいきなり、「まるでドローンの空撮のように右から左へ景色が淡々と流れていきます。(以下略)」そう言われると、鑑賞者の眼はドローンとなって、絵巻の景色を俯瞰しながら右から左へと移動していくような体験をする。

「現代美術は、わからない。面白くない」という声もあります

以前に比べ、現代美術に対する関心が高まってきている。筆者が東京国立近代美術館に見に行った「ヒルマ・アフ・クリント展」(2025年)、「大竹伸朗展」(2022年)、「ゲルハルト・リヒター展」(2022年)などは、20~30代の来館者も多く、盛況だった記憶がある。とはいえ、キャッチーなビジュアルの現代美術に比べ、特にコンセプチュアルな現代美術は、わからない、面白くないという人もいる。そういう方に、成相さんだったら、どんな見かたを教えてくれるのだろう。

「個々の作品であれば、それぞれの面白さについてお話できますが、一概に言い難いですね。コンセプチュアルなものは、それぞれ見かたが違います。現代美術についても、この美術館ではかなりユニークな解説が並んでいますので、それをご覧になりながら作品を見ていただくと楽しめるかなと思います。」

その他にも、会場には、QRコードを読み取ると解説を聴くことができる作品もある。東京国立近代美術館ホームページには、同館研究員による解説や、過去に開催したアーティストトークを視聴できる貴重な動画もある。興味のある方は、ぜひ利用してみて欲しい。

キュレータートーク(リンク先でご覧いただけます)

アーティストトーク(2005-2011)(リンク先でご覧いただけます)

もちろん、これらの解説は、答えではない。あくまでも考えるヒントであり、見る側の自由な解釈を妨げるものでもない。ただ、美術の仕事と関わっている筆者の体験としても、解説を読んでも、これはピンとこないなという作品もある。それは筆者の理解力や想像力不足の時もあるし、時には作品の伝達力不足もあるかもしれない。ただ、現代美術に限らず、「この作品はこういうもの」と決めつけてしまっては、思考も止まるし、感情も動かない。

「一概には言い難い」と言われた成相さんだが、こんな話をされた。

「結局、たくさんの作品を見ることは大事です。絵を見るのに慣れてくると、ふだん使っているのとは違う独特の目の使い方をするので、見えてくるものがあります。」

これは美術に限ったことではないのかもしれない。音楽でも、スポーツでも、自分が興味を持ったものをたくさん見たり聴いたりすることで、演奏にしても、プレーにしても、積み重ねがあるからこその違う見かたができ、もっと面白くなるということはある。

とりあえず、「わからない、でも気になる」を美術館に行った時のお土産として持ち帰ってもいいのではないだろうか。近年、生活にITが浸透し、さらにAIも加わり、安易に、性急に、答えを求める人が多い。

「そうですね。今、即時的であることがすごく求められていて、逆に言えば、ゆっくりできる場所がもうほとんど残っていません。一つの絵の前に立ったり、そこでものを考えたりということ自体が、その風潮に対する抵抗になり得るというか。美術館は、時代遅れなものではなく、その一つの場として非常に有効であると思っています」

日本画を展示している10室は、和の雰囲気の椅子が用意されている 2026年6月9日撮影
日本画を展示している10室は、和の雰囲気の椅子が用意されている(2026年6月9日 筆者撮影)

改めて、この取材記事のタイトルは、「60分で辿る日本の近現代美術」である。60分あれば、ハイライトの作品だけを見ることもできる。部屋毎に、自分が気になる作品を1点みつけて、その前で3~4分過ごすこともできる。

東京国立近代美術館は、東京駅からのアクセスもとてもよいので、忙しい人ほどちょっと時間を作って、MOMATコレクションに何度も足を運んでみて欲しい。見慣れた作品に新たな発見があることもあれば、初めて見る作品に出会って、頭の中にあった思考の枠が広がることもあるかもしれない。ただ展示室の椅子に座り、ぼーっと作品を眺めているだけで気分転換もできる非日常空間が、喧噪な都心にあるこの美術館なのだ。

所蔵作品展MOMATコレクション 2026年5月26日(火)-9月13日(日)

前期:2026年5月26日~7月20日  後期:2026年7月22日~9月13日

フロア展示室時代又は分野展示テーマ筆者の独り言
4階1室明治中ごろから今日までハイライトあっ、これもあれもMOMATコレクション
2室1880s-1940s
明治の中ごろから昭和のはじめまで
坂の上の雲この部屋に重要文化財が3点も
3室わたしと太陽夭折の美術家は早熟?
4室海を渡った新版画木版画は日本のお家芸!
5室風景の動員時代の空気を読んで、見る
3階6室1940s-1960s
昭和のはじめから中ごろまで
鋼鉄の夢、廃墟の傷価値観の大変換にどう向かう
7室オヘソの手術平面作品は二次元?
8室物質化か非物質化かモノから離れられないアート
9室写真・映像ヴィデオ(私はみる)絵を見るように映像を見る
10室写真・資料劇場・海景・スギモトノート時の流れを感じ、瞑想
日本画前期:風を表す
後期:近代日本画の鳥
「日本画=古い」の先入観を捨てて、見る
2階11室1970s-2010s
昭和の終わりから今日まで
イメージ:出現と消失作家とイメージを共有できるのだろうか
12室イメージ:内なる力ジェンダーって何だろう

展示する作品は、どう選んで、どう並べているのでしょうか

所蔵作品展「MOMATコレクション」は、東京国立近代美術館の代表的な作品を展示する、1室「ハイライト」のコーナーのほかに2室から12室まである。(※1)1室以外は、ほぼ時代順に作品を展示してあるが、それぞれの部屋にテーマがあり、年に数回入れ替えを行っている。

※1 MOMATコレクションという名称を使用していないが、主にコレクションによる小企画展を開催する2階の「ギャラリー4」もある。

例えば、4階の2室~5室は1880年代~1940年代の所蔵品を展示するが、取材時の2室のテーマは、司馬遼太郎による同名小説のタイトルから取られた「坂の上の雲」である。日清日露戦争を経た時代を背景に、日本の美術家たちの意識がどのように変わってきたか、当時の作品を通して見せる切り口になっている。

和田三造《南風》1907年、油彩・キャンバス、151.5×182.4cm、重要文化財、東京国立近代美術館蔵
和田三造《南風》1907年、油彩・キャンバス、151.5×182.4cm、重要文化財、東京国立近代美術館蔵

同館主任研究員の成相肇さんが、各部屋の展示をどのように工夫しているかを語ってくれた。

「当館の最も大きい特徴は、所蔵作品展を通じて明治後半以降から現代までの、日本の美術史が把握できるということがあります。それは、東京国立近代美術館だけです。
その時代を踏まえつつ、来館者の興味を惹きつけるように、小さく分けた部屋に色々なトピックやテーマを与えて構成しています。それを、毎回各研究員が提案して、そこから選ぶいわゆるキュレーションをしています」

部屋によって、担当の研究員は決まっているのだろうか。

「いえ、決まっていません。研究補佐員と言う役職も含めて、研究員10名ほどで提案会議を行い、それでいこうという調整を経て実現するのですが、どの部屋を提案することも可能です」
作品の並べ方も気になる。

「ある程度、制作年も考慮しますが、その時代のものだけを単純に並べるわけではなく、一つのまとまりとして把握しやすいように、あるテーマに沿って並べます」

4階3室には、自画像5点が並べて展示されている(2026年6月9日 筆者撮影)
4階3室には、自画像5点が並べて展示されている(2026年6月9日 筆者撮影)

作品リストの順番通りには、必ずしも展示しているわけではない。そういえば、3室「わたしと太陽」のコーナーでは、雑誌『白樺』の図版からゴッホの影響を受けた画家たちの作品が展示してあるが、それとは別の壁面に5人の画家による自画像だけ5点を並べて比較できるように展示してあった。その意図を考えるのも面白い。

美術館にいる研究員は、どんな仕事をされているのでしょうか

美術館の研究員が、所蔵作品展のテーマを決めて、作品を選び、展示していることはわかった。しかし、そもそも、美術館の研究員は、どんな仕事をされているのだろうか。

「表には出てきませんので、何をやっているのかよくわからないですよね」と成相さんが教えてくれた。

「大変多岐にわたるので説明が難しいのですが、美術館の3本柱である収集・保管、展示、調査・研究が我々の業務の基本です。

収集は、どんな作品を収集すべきかを検討し、そのための調査を行います。外部から作品の購入や寄贈の話があれば、そのやり取りも行います。国の美術館ですから、収蔵するのにふさわしい作品か検討して判断しなければならない、かなり重要な仕事です。
保管に関して言えば、既に所蔵している作品の管理です。常時、作品の状態をチェックし、データベースを作ります。

MOMAT所蔵作品の収蔵庫(リンク先で画像を見られます)

修復が必要なものは、修復に出しますし、修復が本当に必要か、修復の方法や程度をどのようにするかなどを判断します。また、他館からの貸出依頼対応や、作品を見たいという研究者の要望に応じて保管してある作品を出して見ていただくこともあります。

展示に関しては、何を見せるのか、どういうテーマで見せるのか、という先々のプランを考えるのも我々の業務です。その作品は展示しても問題がない状態なのか、他の貸出しと重複していないかなどもチェックします。解説の執筆や展示図面の作成も行います。

調査・研究で言えば、他の展覧会を観に行ったり、画廊を回ったりします。アーティストのところに直接訪問する、スタジオビジットという仕事もあります。これはアーティストとの関係性をつくるのにも役に立ちます。今、どういう表現がなされているのか、その作品は入手可能かどうかも確認します。購入可能であっても、美術史的にもっと重要だという作品が美術マーケットにあれば、それを把握します。

当館の1階で開催する、企画展の担当にもなります。その場合は展覧会の企画づくりや、カタログに掲載する文章の執筆も行います。マスコミとの共催の場合でも、どの作品を選ぶのか、企画内容に沿ったテキストを執筆するなど、専門的な業務は我々に一任され、責任もあります」

現代アート作品は、どのように判断して収集しているのですか

展示は、研究員の仕事において、まさに氷山の一角。国立の美術館であるだけに、その責任の重さもずしりと感じる。

お話を伺っていて、特に現代アート作品を収集する難しさを感じた。現時点で美術史上重要な作品と判断しても、10年後、20年後、50年後の評価は変わっているかもしれない。美術マーケットにおける経済的価値と、美術史上の評価は必ずしも一致しないが、美術館の意図とは関係なく、国立美術館に作品が収蔵された作家の経歴には重みが出るし、美術マーケットにおける価格にも多少の影響を与えるかもしれない。成相さんは、どのように判断されているのだろうか。

「当館の収集方針を踏まえながら、我々が、専門で行った研究を踏まえて判断するとしか言いようがないですね。ただ、それは独断にはならなくて、まず館内部で随時行っている会議から始まります。

これはかなりシビアな会議です。やはりお互いに遠慮してはいけなくて、国立の美術館の所蔵品になれば、原則未来永劫所蔵するということになるので、非常に責任が重い。ですから、検討に検討を重ねます。同時代の作家であればなおさらです。

当館の中で活用性が高い、こういう作品とつながっています、展示するのであればこういうプランがありますなど、説得するための資料を集め、みんなの前でプレゼンします。それで購入を判断するのですが、購入に至るまではまだ委員会が複数あります。この美術館にふさわしいものか、信頼のおける作品であるかを判断する第三者委員会を経て、最終的に購入が決まりますので、非常に複数の意見と視点が入るわけです」

ジェンダーバランスや地域性を意識していますか

東京国立近代美術館では、最近、スウェーデン出身の女性作家「ヒルマ・アフ・クリント展」や1950年代~60年代の前衛女性美術家たちの活動を紹介する「アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦」など、女性作家にスポットをあてた展覧会が多い。

また、今回のMOMATコレクションの12室「イメージ:内なる力」では、壁面展示作品の作家6人はすべて女性作家だ。

「不遜な言い方かもしれませんが」と成相さんが語る。「東京国立近代美術館の指針がモデルになるという自負があります。当館に限らず、もう何十年とジェンダーバランスが偏っていると言われています。ですからなるべくその是正に努めたいです。
また、地域性についても、西洋や日本のみならず、今は韓国、中国、台湾といった東アジア地域の作品も積極的に収集しようと乗り出しています」

AIは、美術館の活動に影響を与えるのでしょうか

今、AIが急速に発展し、世界中に普及し始めている。当然、美術館の仕事にも影響があるのではないだろうか。

「既に導入されているのは、翻訳です。ウェブサイトでも日本語、英語以外の多言語でご案内をしたいという時には、ネイティヴチェックはできないのですが、自動翻訳を使っています。AIで生成された音声によるガイドも使っています。

逆に、海外からの来館者には、スマホを日本語の解説にかざして、そのまま直接自国語に翻訳している場合もあります。

AIには、学習するためのリソースが必要です。特に、美術館、博物館はまさしくアーカイヴされてきた情報を無数に持っていますから、それが活用されてAIが何か新しい創作物を作る、もしくは既にあるデータベースの中からAIが企画を提案するとかはあるかもしれません。ただ、今のAIは与えられたリソースから要約をすることは得意ですが、人間のように、『これは実は無関係のようで、ものすごくつながっている』という発想はやりにくいんですね。そこで、企画性が高い、意外にこれとこれがつながっているというアイデアは我々が作りますが、それをサポートするようにAIがより発展的なアイデアを出すということは、今後あるかもしれません」

今後AIを利用して作品をつくる作家も増えてくるだろう。扱いが難しくないだろうか。

「制作の道具として、プロセスとしてAIを使うということには、何ら問題は感じません。ただ、発表する表現自体がAIによって生成されたものである場合が非常に難しいのですが、今の状況ではAIを用いて描いた作品を収集するレベルにまではまだ行っていません。もし、AIのある今の状況を客観的に表現するために、AIを使った作品があれば、可能性はあります。但し、完全にAIに従属した状態でつくられた作品は、まだその対象にはなり得ないと思います」

『直近の』作品も扱う国立の美術館として、誰のどの作品をいつ選ぶのか、そしてなぜその作品を選ぶのかという判断の難しさはある。しかし、お話を伺って、今までの美術史の文脈を踏まえた軸があるからこそ、選ぶことができることを改めて感じた。

今後AIがどんな発展をするのか知見のない筆者には予測もできないが、これだけは言える。AIは人間の言葉を操る機械に過ぎない。そこに感情はない。

研究員が実際にある作品を選ぶ、保管する、調査研究するという行為は、人間が興味や情熱をもってする仕事である。そしてまた、来館者は、わざわざ足を運んで作品を見に行き、そこで感動したり、面白くない、わからないと思ったり、新たな発想が思い浮かんだりする…美術館は極めて人間的な場所だ。

ここも見て欲しい│展示室で少し休むなら「眺めの良い部屋」へ

4階『眺めの良い部屋』

『眺めの良い部屋』 photo: 木奥惠三
『眺めの良い部屋』 photo: 木奥惠三

MOMATコレクションの1室を見て、すぐに休憩ということになりますが…

この部屋からは眺める景色は、お濠から向こう側が皇居で、手前が丸の内のビル街。皇居は江戸城址なので、お濠を隔てて近世と近・現代があるのが不思議な感じです。もちろん、四季折々の皇居の自然も楽しめます。

4階→3階の階段吹き抜け部分/3階7室脇小部屋 「建物を思う部屋」

ソル・ルウィット《ウォール・ドローイング#769 黒い壁を覆う幅36インチ(90㎝)のグリッド。角や辺から発する円弧、直線、非直線から二種類を体系的に使った組み合わせ全部。》

まず、作品タイトルが長すぎます。そして、これは幾何学の問題ですか?それとも組み合せの問題ですか?小部屋に入ると、手前の壁に、番号のついた曲線の組みあわせがあります。これを使うと、誰でも、頭の中で壁に描いてあるのと同じ作品が描けるはずです。9月13日まで、8室にはこの作家の立体作品も展示してあります。やっぱり幾何学模型みたいなんですが。これもアートなのでしょうか?

2階 アントニー・ゴームリー《反映/思索》2001年 鋳鉄 

アントニー・ゴームリー《反映/思索》2001年、鋳鉄、各191.0×68.0×37.0cm、東京国立近代美術館蔵

この作品は、だまし絵の立体版なのか。館内と館外から作品を確認してみてください。世間には自分にそっくりな人がいるという話もありますよね。つい写真も撮りたくなる、色々考えさせる作品です。

〈取材協力〉
東京国立近代美術館 主任研究員・成相肇さん

〈参考〉
東京国立近代美術館サイト https://www.momat.go.jp/
『東京国立近代美術館60年史 1952-2012』東京国立近代美術館 2012年
『東京国立近代美術館所蔵名品選 20世紀の絵画』東京国立近代美術館編 光村推古書院 2005年
『国立美術館ガイド1 東京国立近代美術館の名作』東京国立近代美術館、大谷省吾、北村仁美監修 独立行政法人国立美術館 2019年

(アートコンサルタント 亘理 隆)

よくある質問

MOMATコレクションは常設展ですか?

東京国立近代美術館の所蔵作品を紹介するコレクション展です。ほぼ通年で開催されていますが、作品は会期ごとに入れ替わるため、同じ作品がいつでも見られるわけではありません。

MOMATコレクションの所要時間はどのくらいですか?

主要作品を中心に見るなら60分ほど、各展示室のテーマまでじっくり見るなら1時間半から2時間ほど見ておくとよいでしょう。

初めて行く場合、どこから見るのがおすすめですか?

4階1室の「ハイライト」から見るのがおすすめです。東京国立近代美術館を代表する作品が集められており、短時間でもMOMATコレクションの魅力をつかみやすい部屋です。

有名作品はいつでも見られますか?

いつでも見られるとは限りません。日本画や版画、水彩、ドローイングなどは保存のため展示期間が限られます。見たい作品がある場合は、来館前に東京国立近代美術館の出品予定作品ウェブサイトを確認するのがおすすめです。

チケットは事前予約が必要ですか?

当日窓口でも購入できますが、公式オンラインチケット予約で事前購入することもできます。金曜・土曜の17:00以降は割引料金で入館できます。

MOMATコレクションだけで小企画も見られますか?

MOMATコレクションのチケットで、コレクションによる小企画(ギャラリー4)も見ることができます。

現代美術が苦手でも楽しめますか?

楽しめます。最初から意味を完全に理解しようとせず、気になる形、色、素材、言葉、違和感を手がかりに見ると入りやすくなります。会場の解説や所蔵品ガイドも参考になります。

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