テンプル大学卒業生および在学生による多国籍アーティストユニットBUKUROの現在地│各アーティストの制作動機や活動を聞く

創設者Timothy Shillに聞く、BUKUROの現在地

――ティモシー(ティム)さん、本日はよろしくお願いします。さっそくですが「BUKURO」の活動について教えて頂けますか?

ティム こちらこそ。アート集団「BUKURO」を始めた動機は、最初は単純だったんです。テンプル大学のアート学科を専攻した私は卒業後も仲間に「作品を作りたい、学びたい」という気持ちを失ってほしくなかった。お互いにアートを作り続けることに挑戦するグループを作ることにして「BUKURO」と名付けたんです。私たちのミッション・ステートメントは「互いに励まし合いながら、創作を続け、インパクトを与える」です。

――「BUKURO」の名前はどこからきたのですか?

ティム 「BUKURO(ブクロ、袋)」という言葉は、先進的で多用途で自由な文脈を示唆しています。例えば「手ぶくろ」や「レジ袋」、つまり「BUKURO」なら何でもありだし、ユニークなライフストーリーを持つ人なら誰でも、「BUKURO」に何でも含めることができるわけです。私の故郷ではもうビニール袋を見かけないのですが、日本ではいまでも使われますね。日本っぽい印象を持ちます。ビニール袋に。そういうわけで、様々なタイプのアートを詰め込めるよりどころとして「BUKURO」と名付けました。

――「BUKURO」はどんな活動をされていているのでしょうか。

ティム まだまだアーティストとしては無名の我々ですがちょっぴり手応えを感じています。「BUKURO」は何度かこれまでに展覧会を開催し、少しずつ来場客を獲得できてきました。日本の方にも外国の方にも徐々に活動が知られるようになってきました。いずれは自分たちのスタジオを構え、そのスタジオを使ってアート展やイベントをしたいですね。
そして私たちの出身地であるアート・コミュニティに恩返しをしたい。テンプル大学ジャパンにアーティスト・レジデンスを提供し、アート奨学金を提供したいのです。これには長い年月がかかるかもしれませんし、その過程で多くのチャレンジがあるかもしれません。

Tokyo Vibes Art Pop-Up – January 2024

――「BUKURO」メンバーには現在どのような方々がおられるのでしょうか。

ティム 「BUKURO」のメンバーは10名以上と多く、今後も増えていく予定です。「BUKURO」には、写真家、デジタルアーティスト、グラフィックデザイナー、画家、シルクスクリーナーなどがいます。私たちは多種多様です。私たちは大きなアートファミリーのように成長したいと思っています。各メンバーを紹介したいところですが、彼ら彼女らからの直接の声をぜひ聞いてみてください。インタビューを通じて読者のみなさんがアーティスト一人ひとりを知れば、そこから私達の活動にも生興味をもっていただけると思います。そして私達だけでなく他のアーティスト(有名無名を問わず)の存在にも興味を持ってもらえたら嬉しいです。

ゴールは議論を続けるための具体的な疑問を探すこと RIKA MURAKAMI

Untitled (100 prints) 2023, Ink on paper, wooden canvas frame, rope, clips, Dimension variable / 無題(100枚のプリント) 2023、紙にインク・木製キャンバスフレーム・ロープ・クリップ、可変寸法

――紙を丸めてスキャンしてプリント、それを100回繰り返したこの作品。意図的に色をつけた作品だと思っていましたが、そうではなかったのですね。

Rika はい、影によって偶然生まれた色彩です。いつの間にか現れた色や現象です。100度スキャンとプリントを繰り返すのはとっても疲れました!でもそれが私の目標でした。当時、何を描こうかと考えるのがもどかしかったんです。だからただ白い紙をスキャンして、プリンターに判断を委ねました。実はこれは現在進行中のプロジェクトです。そういうものがアートピース(芸術作品)の本質だと考えています。「練習」は私の人生と重なります。私がスキャンしたものは成長を描いたもので、それは私が人生でどのように成長していくかと似ています。真っ白な紙から始まり、人生によってスキャンされ、つぶされ、繰り返されます。

――「練習」があなたのテーマなのですね。そこから生まれた作品から、なんとも言えない驚きと興味を感じます。

Rika ありがとうございます。私は日本人ではありますが18歳までベトナムで育ちました。4人兄姉がいて2人が病を抱えていたので、父母の注目はどうしても私には向けられなかった。私は私自身で自分の世話をしなければなりませんでした。自分で練習して成長して乗り越えることが私の人生でした。

――その経験が密接に作品と重なっているのですね。その背景を伺うと一層、他の作品も興味深く感じます。

Rika 練習というのは上達するためには何度もやらなければならないし、その過程で何度も失敗します。何かを達成するために失敗したり、何かをするために失敗したり。失敗するとわかっているその過程が、私が作品を作るときに満足させる要素です。私の作品のほとんどは、すべてとは言いませんが、繰り返しが多いです。繰り返されるイメージ、オブジェクト、被写体…など。

――作品づくりのきっかけ、インスピレーションはどこから得ていますか?

Rika 私は個人的な経験や、特に私たちが生きている時代のルールや考え方に「疑問」を持つことから多くのインスピレーションを得ています。私のゴールは、作品を作るときに抱いた「疑問」に対する答えを見つけることではなく、議論を続けるための具体的な「疑問」を探すことです。

DIVIDE Dec 15 2023, Paper, ink, water, cups/分割イベント 12月15日 2023、紙・インク・水・カップ

Rika この文は、読者への指示書です。有名なものにオノ・ヨーコ氏の『カットピース』があります。『カットピース』ではCut(切れ)の指示書に従い観客が彼女の衣服を切っていき、さまざまな観客たちの反応が見られました。私たちは、理論的には可能だが物理的には不可能なことをするというアイデアを探求するためにこのパフォーマンスに参加しました。指示書の具体的な内容は「水を半分に割って、半分を飲むということを、水がなくなるまで繰り返そう」というものでした。このジャンルは、インストラクション・アート(指示書・設計図による作品)と呼ばれます。

手に書かれた招待状

Rika 私の手と一緒に写っている写真は、私の手に書いた招待状です。パフォーマンスアートをやってみたかったんです。オノ・ヨーコ氏のグレープフルーツ・ブックに触発されたから。私の手のひらに描かれている文字は招待状です。だから人々は招待状の物理的なコピーを持つことができません。私は彼らに「私の公演に来ませんか?」と言いましたが、彼らは「考えるけど、覚えていないかも」といいます。私は指示をしていないけれど、彼ら彼女らは自ら写真を撮りはじめました。

――今後の活動も楽しみにしています。今日はインタビューに応じてくださりありがとうございました!

Mika Murakami 18歳までベトナムで育ち、テンプル大学日本校でアートを専攻。21歳。

孤独を昇華するホラーアート Timothy Shill

Timothy Shill

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移民の子の心理 EMILY MA