人気日本画家の設樂雅美さんに福福堂の編集部がインタビューをしました。早速インタービュー〈後編〉をお楽しみください!
画家 設樂 雅美 インタビュー〈後編〉
下積み時代
――チャリティー展後の活動はどのようにされていたのでしょうか。
三年契約の画材店を辞めなければならなくなりました。絵を描けるならお仕事はなんでもいいと思い、休みが多くてお給料も良いところを探し、近所の歯科医院で働くことになりました。それまでは絵を描く人たちに囲まれ働いていたので絵の話ができたのですがそれがなくなってしまって…。何か絵の世界から取り残されたように感じてしまい、そこは結局1年でやめてしまいました。そのあともなかなか絵で食べていける道を見つけられませんでした。絵を描く時間よりも、結局生活するための仕事で働く時間が長くなるんですよね…。せめて物作りにかかわることのできる『職人』になろうと28歳のころに思いました。
――なるほど。
一生懸命仕事を探してジュエリーの石留めの職人さんの職に就くことが出来ました。結婚指輪とかのダイヤモンドを留めるところでなんかすごい夢のある仕事だと思って入ったんですけど、実際入ってみたらすごい体育会系でストップウォッチを持たされました(笑)
――えっ、ス、ストップウォッチ(困惑)
はい。短時間でいかに品質の良いものを作れるか、ということですね。階段の廊下を走らなければならなかったりとか。納期があるので納期に間に合わせなくてはいけないから、体力をつけなくてはいけなくてダラダラしていたら怒られるんです。
――厳しい会社だったのですね。
想像していたものとは全然違っていました。そこで社会の厳しさを知りました(笑)今思い返すと社会人としての大切なことや根性が身についたので教育して下さった方々に今とても感謝しています。ただそこが本当に激務だったので。繁忙期がクリスマスなんですが、一ヵ月気がつくと休んでなかったりとか連日終電まで仕事をしたりとか。職人になったとはいえ、私は絵自体は辞めたいと思えないので空いた時間に描きたいのですが、そんな感じでしたので描く時間はほとんどありませんでした。
――その間、絵の活動は全くされていなかったのでしょうか。
2年に1度だけですがグループ展に出品を続けていました。その展覧会は、かつて私が個展をして初めて絵を買ってくださったコレクターさんが企画していた展覧会です。2年に1回、その方が主催し画家を集めて『コレクター展』を企画してくださっています。
――そうなのですね。
職人として『ものづくり』の喜びは感じていたので、気づいたらその職場で5年という月日が経っていました。『なんのために東京に出てきたんだろう』と思って『このまま絵を描かない道で終わってしまっていいのか』と思い悩むようになりました。それで決意し、ようやく職人の仕事を辞めました。でも実際やめてみると私は5年間あまり絵をきちんと描けていなかった事に気がつきました。20代のころにお世話になったギャラリーの方とは疎遠になってしまっていて、もう何から始めたらいいのか分からなくて…。もういっそ絵を辞めてしまおうかなと思ったんです。
――打つ手立てがない状況だったのですね。
転機となったコレクター展
ところが、ちょうど私が仕事をやめた翌月のことです。2年に1度出品していた『コレクター展』が開催されました。その時にコレクターさんの紹介で、画家の若菜由三香さんと出会ったのです。若菜さんのお話を伺うと、自分の境遇とも重なる部分がありました。「もし絵を辞めようと思っているんだったら、私が今入っているアートマネジメントの講座(註 GUAMS。画家でアートプロデューサーの與倉豪が講師を務めていたプロの画家養成講座。主催・福福堂)に参加してみては?」と声をかけていただき、そこで福福堂さんとのご縁が出来ました。
――そうなのですね。その後の展示活動はどのようにされてきましたか?
アートマネジメント講座に参加するようになり、勉強を重ねています。そこで自身の作品をプレゼンする機会もあり、プロデューサーから百貨店での企画展への出品を打診してもらいました。最初の展示は2019年12月で広島の福屋八丁堀本店での企画展でした。百貨店の企画画廊で展示ができると20代の時は想像できなかったので本当に嬉しかったです。
百貨店の企画画廊で活躍する設樂さん
展示ができる喜びをそこで感じました。『もう昔ほど若くないけど、今度こそ画家として成功したい』とその時思いました。
――今では全国の百貨店企画画廊でご活躍をされていますね。
現在は関東をはじめ北陸から九州に至るまで個展をする機会をいただけるようになりました。これからも一生懸命頑張りたいです。
――先生、今日はありがとうございました。
(インタビュー 福福堂編集部)
1枚の絵が完成するまで
日本画といえば、独特の絵の具や画材を使って描くイメージがあります。今回は日本画家の設樂雅美さんに1枚の絵が完成するまでの流れをうかがいます。
「風を綴る」 F20号 日本画 2022年 設樂雅美
題材を見つける
最初は絵のモデルになる場所や自然を探すのですが、大体散歩に出かけたときに見つけています。姪っ子がいるので姪っ子と公園に行ったときなんかに見つけています。今は地元山形には行けないので埼玉で自然を見つけています。
ちなみに姪っ子は、6歳と2歳の双子がいて。3人ですね。もう姉はてんやわんやです。一緒に散歩にいって子供目線でお花を見たりします。普段しゃがんで花を見ることがないので子供目線の発見がありいいなと思います。しゃがむと土の香りだったり幼少期のころに戻ったような気になりますね。
取材・スケッチ
良い題材を見つけたらスケッチをします。時間がないときは写真を撮影しておきます。
スケッチ 構図や雰囲気を決める
自宅のアトリエで下図をつくる
家に持ち帰って下図をつくります。それを作品に転写して日本画を描くのです。
転写後、墨で線を書き起こす
日本画は絵を平置きして描きます
家のアトリエで絵を描いていきます。日本画ですので絵の具がたれないように、絵を床に寝かせ描きます。
下塗り
私の場合は自然を描くことが多いので、青緑色の絵具を下塗りに使うことが多いです。青い水干絵具を胡粉に混ぜて描くことが多いですね。
塗り重ねてても透けて見えたりするので自然の緑や空の青さにはそれが1番合ってるのかなって思っています。
作品に合った下塗りをすることが大切だ
かつては真逆のオレンジとか使ったこともありますが、使い慣れていない事もあったとは思うのですが濁ごってしまいました。青が一番自分とは合うなあと思いました。
日本画の岩絵の具で描く
日本画の画材が一つの色に対して粒子の大きさが違って色々あって、重ね具合だったり組み合わせや量、気温や湿度によっても結構表情が毎回変わってしまい、今でも全然掴めてないところがあります。まだ扱いきれてない部分はあるのですが偶然出てきた色合いも私は大切にしています。
塗り重ねた絵肌。日本画独特のやさしい輝きが現れてきた。
失敗でも『流す』と絶妙になる
失敗やうまくいかないことも多くて、流したりという作業をしたりしています。『流す』というのは日本画の絵の具の落とし方や塗り方の方法です。お湯をつけたタオルで絵具をふき取っていくのです。その時に他の色同士が混ざり合ったり、拭き立った部分に絵具が少し残ったりして絶妙に良くなっていきます。
『流す』と絶妙な色合い生まれる
様々な和紙を試して自分や作品に合うものを選ぶ
それでその上からまた描いたりして、そういうのを繰り返していくので普通の和紙だとすぐにボロボロになってしまうので、私は高知麻紙という高知県産の得厚の和紙を使っています。自身の作風ともマッチするので、気に入っております。
すごく繊細な日本画を描く人にとっては、厚くてごわごわした紙って言われる事があるんですけど、私にはすごいそれがあっていて描いたり消したりを繰り返しながら使っています。
絵肌(マチエール)の工夫
マチエールは画家の世界観を伝えるために必要な要素です。私の場合はざらざらした絵肌が好きなので和紙に胡粉と粗い水晶末を混ぜて、その上に下絵を転写しています。
その後、墨で描いていき日本画の絵具を粒子が細かいものから徐々に粒子が荒いものを重ねていくという日本画の基本的な方法で塗り重ねをしています。とはいえ、絵の具を重ねなくてもイメージが表現できるならそれでも良いと思います。日本画はずっと描いていますが、まだ掴めていなくてだからこそ楽しいというか良い面があります。
顔料が粗いと光で絵肌がきらきらとして見えます。私は自然を描くので、その絵肌の控えめな光が自然の陽射しの輝きのようになったら、と思って仕上げています。 (取材・福福堂編集部)
設樂雅美さんに聞く!『一日のルーティン』
『画家』は、いったいどんな生活をしているんだろう? 編集部では日本画家・設樂雅美さんに『画家』の一日を聞いてみました。普段はなかなか見ることのできない『画家』の或る一日を切り取ってみたいと思います。
7:45頃 起床。
前は夜型だったのですが最近は規則正しい生活送らないとすぐ体調崩したりしてしまうので、大体7時45分に起きています。朝はコーヒーを飲みながらニュースを見ます。
陶芸の作家さんから購入した10年愛用のマグカップ
9:30頃~ 制作
12:30頃 昼食
13:30頃~ 制作
午後は絵を見に行くこともあります。他の作家さんの絵を見に行ったり美術館にいったり。やっぱり趣味も『絵』なのです。美術館の庭とかカフェとかを見るのも癒されて好きですね。
16:00頃 散歩など。気分転換や体を動かすことも大切です。
よく散歩で訪れる公園
19:00頃 夕食
21:00頃~ 制作
22:00頃~ こまごました日常
24:00頃 就寝
プロフィール
設樂雅美 MASAMI SHITARA
1984年
山形県天童市生まれ
2009年
東北芸術工科大学大学院 芸術文化専攻日本画研究領域 修了
◆展示歴◆
2012年
グループ展「北斗七星」展(アートスペース羅針盤/東京)
3人展「あしたへの手紙」展(gallery re:tail/東京)
5月(遠野蔵の道ギャラリー/岩手)、6月(ビルド・スペース/宮城)巡回。
グループ展 第1回「飛の会」(佐藤美術館/東京)
2015年
グループ展 第2回「飛の会」(井上画廊、KAMIYA‐ART/東京)
2019年
「いまここを生きるアーティスト2019年」(ギャラリー枝香庵/東京)13、
15、`17年参加 グループ展「アート関ヶ原」(福屋八丁堀本店/広島)
2020年
グループ展「ネオナイーブ派」展(阪神梅田本店/大阪)
「EGC」展 (阪神梅田本店/大阪)
2021年
「EGCセレクト」展 (阪神梅田本店/大阪)
「EGC」展 (福屋八丁堀本店/広島)
「大EGC」展(ヒルトピア・アートスクエア/東京)
二人展 「設樂雅美・松尾彩加 若手二人展~ひかり、木漏れ日と雫~」(福屋八丁堀本店/広島)
2022年
「EGC」展(福屋八丁堀本店/広島)
「大EGC展」(阪神梅田本店/大阪)
◆個展◆
2010年
個展「設樂雅美展」 (銀座ゆう画廊/東京)
2011年
個展「設樂雅美展」 (銀座OギャラリーUP・S/東京)
2013年
個展「設樂雅美展」 (柴田悦子画廊/東京)
2022年
個展 「設樂雅美日本画展~木々のさざめき~」 (山口井筒屋店/山口)
個展 「設樂雅美日本画展~風のさざめき~」 (小倉井筒屋店/福岡)
◆入選歴◆
2006年
第33回創画展 入選 (東京都美術館/東京)07、
11年入選
2008年
第34回春季創画展 入選 (日本橋高島屋/東京)`10年入選
第26回上野の森美術大賞展 入選 (上野の森美術館)
作品解説
「澄んだ空の下」
F3号 日本画
設樂雅美
秋晴れの空の下、紅葉で黄色に染まった欅(けやき)の葉が風にそよいでキラキラと光る。ちょうど今の晴れ渡る季節の空気を感じさせてくれる作品だ。木の下には日向ぼっこをする人の姿。黄色いマットに赤い水筒のようなものが見える。こういった小道具を描くことで、作者は秋の風景をやさしく心地好いものに演出している。
山形の手つかずの荒々しい自然の中で育った作者は、コロナ禍で故郷山形へ帰ることがままならなくなった。そんな時、埼玉で姪と訪れた公園で人の営みの感じられる穏やかな欅の木に感動したという。そんな作者の素直な感動が伝わってくる作品である。
(福福堂)
設樂雅美さんの展覧会情報
coming soon
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