画家 若菜由三香さん インタビュー〈後編〉

 画家の若菜由三香さんに福福堂の編集部がインタビューをしました。 それではインタービュー〈後編〉をお楽しみください!

→インタビュー〈前編〉はこちら

画家 若菜由三香さん インタビュー〈後編〉

まさかの理由で大学生活がピンチ!

――武蔵野美術大学の通信教育課程で学んで来られて、何か心に残っている出来事などはありますか?

 同級生はシニアの方が多かったです。『シニアの方でもこんなに情熱を持ってきてるんだなあ』と感じました。画家を目指している方はほぼいなかったのですが、年齢を重ねても情熱があればやれるのだという気持ちも奮い立たせていただきました。

――通信教育課程でも時々学校へ行く機会はあったのですか?

 はい。スクーリング(面接授業)というものがありました。あの、私はまあ、留年したんですけど…(笑)

――えっ?!そうなんですか(笑)どうしてまた。

 学費を捻出できそうなのが通信教育課程だけだったので通いはじめたんですが、それでも学費や画材代を稼ぐためにもアルバイトを一生懸命しないといけませんでした。週5回アルバイトに入っていたら全く学校の制作課題やレポートが終わらなくなってしまい、留年しました。留年してから来年はどうしようかと考えていた時に、『あっ、奨学金というものがある』と気づいたんです(笑)

――なるほど!奨学金ですね。

 返済不要の奨学金審査にポートフォリオ(作品集)を郵送しました。そうしたら3年生の時には少しの学費の支払いで済んで、4年生のときは全額無料にしていただけたんです。とてもありがたいことでした。

卒業制作で描かれたF100号の油絵
卒業制作で描かれたF100号の油絵

私を変えた山梨の『八ヶ岳倶楽部』

――ちゃんと審査に合格されたんですね。素晴らしいです。大学を卒業したあとは、どのような創作活動をされたのでしょうか。

 実は大学では、画家になる方法を具体的に教わることはありませんでした。先生からは「とにかく描き続けることです」と言われました。

 私は千葉県育ちです。千葉以外の場所にも行ってみたいと考えました。様々な地域に住んでその土地の人や文化、価値観に触れることが、私の作品にも幅ができると思うのです。ずっと絵を続けるためにも必要なことだと。地方で住み込みをしながらアルバイトをすれば、生活費にもなるし作品の幅を広げることができる。一石二鳥だと思いました。長野県の牧場などで働いたりもしましたが、その中でも山梨県の『八ヶ岳倶楽部』で働いた時の衝撃は大きかったです。

――衝撃を受けるほどの思い出があるのですね。

八ヶ岳倶楽部の風景は『人と自然の仲のいい風景』だ
八ヶ岳倶楽部の風景は『人と自然の仲のいい風景』だ

  八ヶ岳倶楽部というのは、もともと私の母(陶器作家 若菜邦子)が『いつか行ってみたいな』と言っていた場所でした。私自身も八ヶ岳という場所に行ってみたいと思っていたその頃、たまたま求人広告が出ていたのを目にして応募したんです。八ヶ岳倶楽部は山梨県にあります。俳優の柳生博さんが作った森です。『人と自然の仲のいい風景』という言葉を柳生さんがおっしゃっていました。

――『人と自然の仲のいい風景』

 八ヶ岳倶楽部にある雑木林の木漏れ日はとても美しかった。雑木林を歩いていた時に柳生さんが、「見てごらん。この木漏れ日はパパが作ったんだよ」と言いました。「こんなきれいな木漏れ日を自分で作れるんだ!」と感動しました。枝を選定して木漏れ日が差す森にすると風が通ります。風が通ると下草が元気になり、虫たちが来て、虫たちが来るとそれを食べに鳥たちも来るんですね。人間が手を入れたところで生き物たちが一緒に暮らす『人と自然の仲のいい風景』というものを体験しました。私は2シーズン弱住み込みでアルバイトをしたので八ヶ岳の四季を体験できました。四季が強烈なんです。木漏れ日と強烈な四季、そして空も美しかった。野菜も美味しかったです。それらすべての感動が八ヶ岳倶楽部での日々に詰まっています。 

――そこへ行ったからこそ、得られた経験かもしれませんね。

八ヶ岳倶楽部の強烈な紅葉
八ヶ岳倶楽部の強烈な紅葉

 当時の私は、銀座で個展をして手応えのあったモノクロの人物画を続けて描いていました。それが八ヶ岳倶楽部に行って初めて、花や木漏れ日をモチーフにして、色を使って描こうという気持ちになりました。それまでももちろん花はきれいだと思っていたのですが『描きたい!』と思ったのは初めてでした。

千葉へ戻った際に描いた油絵「room ~ earlymorning ~ 」2011年
千葉へ戻った際に描いた油絵「room ~ earlymorning ~ 」2011年

 木漏れ日、つまり光をそれまでも大切にしていたことに気づきました。『これから私はどうしたらいいんだろう』と落ち込んだ時に部屋のカーテンを開けると光が差し込みます。それで光を浴びて『がんばろう』という前向きな気持ちが不思議と湧いてくるんですね。だから木漏れ日を浴びているときも『さあ前を向こう』というエネルギーが湧いてくるんです。

「room」2015年 パステル 個人蔵
「room」2015年 パステル 個人蔵

 自分の人生の中に、八ヶ岳倶楽部で経験した要素というものが深く入り込んできました。そこでの体験は私の絵が変わるきっかけになりました。それからようやく今の画風へ近づきました。

――八ヶ岳倶楽部での体験が今の画風に影響を与えたのですね。大きな転機でしたね。

 はい。それと、八ヶ岳倶楽部にはレストランやギャラリーがあります。ここでいつか個展ができたらいいな、となんとなく想像したりしていました。住み込みでアルバイトをした後に私は千葉へ戻りました。しばらくの間は公募展へ作品を出したり、ギャラリーでグループ展へ出品したりしていました。でも何か先ににつながるわけでもありませんでした。私はその後も何年もアルバイトを続けました。休みの日は大学時代に履修できなかった版画の講座に通い制作を続けました。自分では『私は画家だ』と思っていましたけれど、働く方がメインになってくると徐々に絵を描くこともままならなくなってきました。

――アルバイトをしながらの制作は本当に大変ですものね。

たどり着いた  百貨店での画家デビュー

 どうすればいいんだろうと思い、インターネットで画家になる方法を調べていたのですが、ある時『GUAMS(講師:與倉豪。主催:福福堂)』という西洋型のアートマネジメントを学ぶ講座を見つけました。そこでようやくプロの画家になるために必要な情報を得ることができたのでした。

――私ども福福堂と若菜先生が出会ったのですね。先生のその後の活動をお聞かせくださいますか。

 画家になるためのマネジメントを勉強をしていた時に講師の與倉さんから百貨店での企画展にお誘いいただきました。百貨店での展覧会は画家にとって滅多にない大きなチャンスですから「やります!」と即答しました。その時ちょうど職場で責任者を任されたばかりだったんですが、画家になるチャンスを掴むため会社に相談させていただき責任者を降りさせていただきました。それから展覧会が始まるまで必死に作品を描いたことを覚えています。様々な準備も必要なので必死でした。それが私にとって初めての百貨店での展覧会でした。

鞆の浦から瀬戸内海をのぞむ。展覧会で全国をまわり活躍する若菜さん。
鞆の浦から瀬戸内海をのぞむ。展覧会で全国をまわり活躍する若菜さん。

 その後は全国各地の百貨店での展覧会に出品する機会を徐々にいただけるようになり、少しずつですが作品を見に来てくださるお客様も増えてきました。展覧会で全国を回ると、地域ごとに異なる人々の暮らしの雰囲気に触れることができます。それがまた作品の幅を広げることにも繋がっているように感じます。各地の食べ物も興味深く美味しいです。

「呉のスーパーで牡蠣フライの大きさに驚いた」そうだ。写真には広島名物『ガンス』が写っている。
「呉のスーパーで牡蠣フライの大きさに驚いた」そうだ。写真には広島名物『ガンス』が写っている。

 時々小学生時代の小さな夢を思い返すことがあるんです。『全国各地の人と文通がしたい』という夢を。作品をお求めくださったお客様へ私は御礼のお手紙を書きます。全国各地へお手紙を郵送しています。その時ふと、子ども頃の『文通の夢』と繋がったような気がして不思議な気持ちになるんです。

地域の空気や風土を感じながらあるく
地域の空気や風土を感じながらあるく

――先生はそういえば、八ヶ岳倶楽部でも展覧会をされましたね。

 はい。百貨店で展示をするようになってからも、時々八ヶ岳倶楽部へお手伝いに行っていたんです。その時に展示をさせていただく運びになりました。そして八ヶ岳倶楽部のギャラリーで、陶器作家の母と一緒に展覧会をすることができました。すこしは親孝行になったかな…と思います。

八ヶ岳倶楽部での展示風景
八ヶ岳倶楽部での展示風景
八ヶ岳倶楽部での展覧会パンフレット
八ヶ岳倶楽部での展覧会パンフレット

〈了〉

インタビュアー 福福堂編集部


若菜由三香さんに聞く!『一日のルーティン』

『画家』っていったいどんな生活をしているんだろう?編集部では若菜さんに『画家』の一日を聞いてみました。普段はなかなか見ることのできない『画家』の或る一日を切り取ってみたいと思います。

6:00頃 起床

愛猫に起こされます。

猫のトイレ掃除やごはんをあげて朝のごあいさつ。

就寝遅かった日はまた寝ます。

毎朝起こす愛猫をモデルに描いた作品
毎朝起こす愛猫をモデルに描いた作品

7:00 朝食・お弁当用意・事務

朝食を食べ終わるとお昼のお弁当を用意します。

メールなどをチェック・事務など

9:00 庭・制作・外出

アトリエ周りの草取りしたり庭をみてから制作。

パネル作りや水貼りなど。

天気が良ければ少し自然や野鳥観察などもかねて             

散策したりもします。常に描きたい素材を探します。

他の画家さんの展覧会を見に出かけることも。     

天気の良い日は素材集めや野鳥観察。山へ散歩によく行くそうだ。
天気の良い日は素材集めや野鳥観察。山へ散歩によく行くそうだ。

12:00 昼食など

気候のいい日は庭でお弁当食べるのがささやかな楽しみです。

朝は忙しいですが。

時間があれば好きな本を読んだり。

「外で食べるお弁当がすきです」と語る若菜さん。庭で遠足気分を楽しんでいるそうだ。
「外で食べるお弁当がすきです」と語る若菜さん。庭で遠足気分を楽しんでいるそうだ。

13:00 制作

途中コーヒーブレイクや犬猫と戯れたりもします。

16:30 犬の散歩、軽い運動など

画家は極端に運動量が少なく、

食と運動を軽視したことで体調不良が続いた経験から、

特に食事と運動はできる限り大切にしようと心がけています。

     

17:30 家事など

18:30 夕食

19:30 制作の続きや事務・情報収集・新作の構想など。

23:00 就寝

日によってかなり変動します。


パステル画の画材・技法  ワンポイント教室!

 プロのパステル画家、若菜由三香先生にパステル画の画材や技法について話を伺いました。作品を描く上で大切にしているポイントなどを伺いました。パステル画を描く方は是非参考にしていただけたらと思います。

空気感を大切にしたい

 作品を描くときは、何かをリアルに描くことよりもその場面の空気感を描くことを大切にしています。

「庭の小道」2020年 パステル・アクリル 個人蔵 

 私自身はパステルの粉の質感が好きで、作品の世界観とも合っていると感じていて、パステルをメインの画材として使用しています。 

 パステルを使い始めたきっかけは、もともと私が木炭が好きだったという所から始まっています。木炭も粉の質感ですね。木炭で描く空気感、質感はパステルにも共通する部分が多いです。

パステルで制作中の若菜さん
パステルで制作中の若菜さん

ハイライトは一番色を重ねている

 パステルで描く際、最初に下地を塗ります。好きな色で塗ります。絵が完成した時に白く見える部分は、実は色を一番塗り重ねた部分になります。もともとは下地の色を塗っているので。写真ではきっとわかりにく部分ですが、原画をご覧頂くとよくおわかりいただけるかと思います。

 私は白く見える部分やハイライトになる部分にアクリル絵の具を使うことがあります。

 私が描きたいテーマ『木漏れ日』と『庭』を描く際にはこのような描き方で描くことが多いです。

 もちろん同じ画材を使っても人それぞれ描きたいテーマや題材は異なります。それに応じて使用法にも差異はあるものだと思います。

紙(支持体)はフランス製のキャンソンミタント

 私の作品の世界観に合うマチエール(絵肌)、そして描きやすさを考慮して今は主にフランス製のキャンソンミタントを使用しています。もっと描きやすく世界観にマッチした支持体があればチャレンジしてみたいです。

絵画の持つ世界観を体験できるマチエール(絵肌)

絵画のマチエール(絵肌)を味わうのも絵画鑑賞の醍醐味の一つだ。
絵画のマチエール(絵肌)を味わうのも絵画鑑賞の醍醐味の一つだ。

 印刷物では伝わりにくい作品のマチエール(絵肌)や質感は、作家の世界観を表現するためにとても重要な要素です。美術館や展覧会場へ行かれた際には、ぜひマチエールにも注目していただきたいと思います。


プロフィール

若菜 由三香 YUMIKA WAKANA

経歴

1983
 千葉市出身
2004
 美學校  ゴージャラスニューポストモダン肉体塾・内海信彦絵画表現研究 修了
2011
 武蔵野美術大学造形学部通信教育課程油絵学科絵画コース卒業
2011-2012
 八ヶ岳山麓で生活

◆展示歴◆

2004
 「流々時空展」 文房堂ギャラリー (東京/神保町)
2010
 「New Years Selection 2011」 ギャラリーARTPOINT東京 (東京/銀座)
2012
 「4人展」 コートギャラリー国立 (東京/国立)
2014
 「絵画コース卒業生の現在展」 FAL(東京/小平)
 「第二回MVW ~若手男女12人が競演する師走の美術展」 福屋八丁堀本店 (広島)
2015
 「あふれる色彩」 ゆう画廊(東京/銀座)
 「GUAMS8 EXHIBITION」 ギャラリー丸美京屋(東京/浅草)
 「EGC」 阪神百貨店梅田本店 (大阪)
 「6SSF」 Gallery Camelia (東京/銀座)
 「林檎とオリーブ」 Gallery Camelia (東京/銀座)
2016
 「EGC」 福屋八丁堀本店 (広島)
 「EGCオールスターズ展」 東武百貨店池袋店(東京)
 「EGC×薫風vol.2」 松屋銀座マロニエ通り館 (東京)
 「うらわアートフェスタ」 伊勢丹浦和 (埼玉)
 「EGC」 後期日程 阪神百貨店梅田本店 (大阪)
 「イレブンバーズ展」 松屋銀座マロニエ通り館 (東京)
 「THE GIFT!」展 伊勢丹浦和(埼玉)
2017
 「EGC×薫風」展 東急たまプラーザ(神奈川)
 「EGC」 福屋八丁堀本店 (広島)
 「みどりを描く~5人の視点~」 伊勢丹松戸店 (千葉)
 「東急田園都市線27駅の絵画展~27車窓物語~」 東急たまプラーザ (神奈川)
 「いまここを生きるアーティスト2017」 ギャラリー枝香庵 (東京/銀座)
 「EGC」 前期日程 阪神百貨店梅田本店 (大阪)
2018
 「EGC」 福屋八丁堀本店 (広島)
 「家族の肖像」阪神百貨店梅田本店 (大阪)
 「若菜由三香×岩井綾女~光と風のインプレッション~」ちばぎんひまわりギャラリー(東京/日本橋)
 「気まぐれ猫街物語」松屋銀座(東京/銀座)
2019
 「花のあるアート展~ハマナスの咲く頃~」 伊勢丹浦和店(埼玉)
 「猫の展覧会」 Art Gallery山手(横浜)
 「アート関ヶ原」 阪神百貨店梅田本店 (大阪)
 「アート関ヶ原」 福屋八丁堀本店 (広島)
 「絵画と陶器のある暮らし」八ヶ岳倶楽部(山梨)
 「ART OSAKA」阪神百貨店梅田本店 (大阪)
2020
 「アートサファリパーク@ISETAN」新宿伊勢丹本店(東京)
2021
 「秘密の世界」伊勢丹浦和店(埼玉)
 「ザ・美術骨董ショー」東京プリンスホテル(東京)
 「いまここを生きるアーティスト2021」ギャラリー枝香庵 (東京/銀座)
 若菜由三香×邦子「絵画と陶器のある暮らし」八ヶ岳倶楽部(山梨)
 田村洋子×若菜由三香「柔らかな日常」大丸京都店(京都)
2022
 「全員集合!寅ねこ展」伊勢丹浦和店
 「秘密の世界」伊勢丹浦和店
 「ザ・美術骨董ショー」東京プリンスホテル(東京)
 「変奏曲を編む」丸善丸の内本店(東京)
 「大EGC展」阪神百貨店梅田本店 (大阪)

〈個展〉

2004
 個展「若菜由三香展」 銀座ギャラリーフォレスト(東京/銀座)
2005
 個展「若菜由三香展」 銀座ギャラリーフォレスト(東京/銀座)
2006
 個展「若菜由三香展」 銀座ギャラリーフォレスト(東京/銀座)
2017
 個展「若菜由三香 絵画展~ひかりのゆらめき~」 伊勢丹浦和店 (埼玉)
2018
 個展「若菜由三香 絵画展~ひかりの音~」東武百貨店船橋店(千葉)
2019
 個展「若菜由三香 絵画展~こもれびのなかで~」阪神百貨店梅田本店(大阪)
2020
 個展「若菜由三香 絵画展~ひかりの庭~」東武百貨店船橋店(千葉)
 個展「若菜由三香 絵画展~ひかりの雫~」阪神百貨店梅田本店(大阪)
2022
 個展「若菜由三香 絵画展~しあわせな時間~」東武百貨店船橋店(千葉)

◆受賞歴◆

2010
パリ国際サロン ドローイング・デッサン版画コンクール 入選 (パリ)
2011
二元展 一般佳作賞 (大阪)※巡回展(九州・愛知)
2012
雪梁舎フィレンツェ賞展 入選 (新潟)※巡回展(東京)
◆その他のお仕事(イラストレーションなど)◆
2016
「東京実用食堂」  日本文芸社  イラスト(表紙・カット)
「とらわれない発想法」  日本実業出版社  イラスト(カット)
2017
「暮らしの雑器とアクセサリー」 DMイラスト・デザイン
「最強のネーミング」  日本実業出版社 イラスト(カット)
2018
「名門高校青春グルメ」  辰巳出版     イラスト(カット)
(サライ.jp内記事に同イラスト掲載)
「世界に通用する「個性」の育て方」  日本実業出版社 イラスト(カット)
2019
NHK総合「にっぽんぐるり」 オープニングイラスト
その他インスタグラムアカウントイラストカット担当


作品解説

『陽のあたる庭』
若菜由三香
51cm×36cm
パステル・アクリル 2021年

 若菜由三香が長らく取り組んでいる『木洩れ日』と『庭』をテーマに描いたシリーズの1作品である。作者の自宅では居間とアトリエが中庭を囲むように配置されているという。この作品はその中庭を描いたものだ。


 2020年冬に始まったコロナ禍によって人々の暮らしは大きく変わってしまった。
外出はままならなくなり、『自宅』での暮らしやすさが再注目されるきっかけともなった。
 自宅でできる趣味は何か、自宅を明るく彩ることのできるものはなんだろう、そのような話題が経済面でのささやかなニュースとなっている。


 作者も自宅の中庭をこれまで以上にかけがえのないものに感じているのだろう。
 あたたかな太陽の光が庭の木を通り木洩れ日となってやさしく降り注いでいる。
 木の足元に丸い形のフウチソウがかわいらしくちょこんと座っいてこの作品をどこかユーモラスにそして温かく彩ってくれている。
 瓶や鉢、2階へと続く階段が斜めに見える。自然と人とが共存している中庭だ。
 そんな中庭をのんびりと眺めているのは作者だけではないようだ。
 庭の向こう側、画面の右手中央に猫のシルエットが見える。猫も向こう側・動物の世界から同じく中庭を眺めているのだ。


 作者が山梨の八ヶ岳倶楽部で体験した『人と自然の仲のいい風景』がこの作品からも感じ取れる。
 作者の自宅の小さな中庭には様々な鳥や虫がやってくるという。鳥が好む植物を植えているのだそうだ。この中庭の木洩れ日の下には小さな生態系ができている。
 コロナ禍の中でも、人間以外の生き物たちは普段と変わらない日々を生きている。自然と仲良く暮らす作者は、こうして自然から勇気づけられ、それを作品を通して私たちに伝えてくれている。


(作品解説 福福堂)


若菜由三香さんの展覧会情報

2023年5月22日(水)~27日(月)
銀座三越 本館7階ギャラリー
〔最終日午後5時終了〕

※作家来場日:各日午前11時~午後5時 都合により変更になる場合がございます。予めご了承ください。

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