「蔵書票ってお名前シールだったの?」
「薔薇の名前」という映画をごらんになったことはありますか?元々はウンベルト・エーコ(1936-2016)の推理小説です。14世紀北イタリアの修道院が舞台なのですが、私はその暗闇の中に光を感じる荘厳な演出が好きで何度か見ました。
修道院で起こる連続殺人事件のキーとなるのは、本です。
あらすじから離れて鑑賞していると、その時代の書籍の貴重さに改めて驚かされます。ある本にアクセスできる権利を持つ人は限られていて、権利が無い人はその本に触れることを許されません。本は知識と情報そのもの、みだりに普通の人が読んで得ることができないものなのでした。そしてそれらは力の源でした。
そのように大変貴重だった「本」は羊皮紙に書かれたり美しい装飾が施されたりして、大切な財産として管理されていました。
「蔵書票」はその貴重な本の所有を表す管理票です。15世紀くらいのヨーロッパが発祥と言われています。本の見返しに絵柄や文字が入った書票を貼付し、誰の蔵書かを明らかにするものでした。蔵書票には、名前やイニシャルや職業、あるいは蔵書の性格を象徴するアイデンティティを表したものが多く描かれ、それらは蔵書の数だけ用意する性格上、版画の技法を用いたものが多かったのでした。
蔵書票はラテン語でExlibris と言いますが、「誰それの文庫から」という意味を持ちます。
持ち出したときに元々の所属が分かるということなのでしょう。言わば「お名前シール」だったということです。
現代は図書館も古本屋も電子書籍もあり、本は読もうと思えば誰でも気軽に手に取ることができる存在になりました。それに従って現代では、蔵書票も本来の目的から離れて「美術品」としての性格に変化してきております。「蔵書票」あるいは「Exlibris」の文字が入った美しい書票たちは、オーダー主の、というよりむしろそれを創り出す作家たちの世界観を表すコレクターアイテムになって楽しまれています。
個人的には、電子書籍に貼る書票や電子書籍の本棚を美しく彩るExlibrisがあったらいいなと思います。どなたか作ってくれないかしら。
(ライター晶)