〈作品解説〉
『俎板(まないた)の鯉』という諺(ことわざ)は、相手に運命を委ねるしかない状態を意味する。そんな運命共同体の鯉同士が俎板の上で相撲を取っている。結局争ったところで他者に運命を委ねるしかないやるせなさ。しかし鯉たちが一瞬見せるささやかな、でもヤケクソの闘争心は生きるものの本性だ。 どこか現実の社会や私達自身を描いているかのような深い問い掛けを持った作品だ。それなのにユーモアたっぷりに描かれていて、そのギャップが却って本質に迫る迫力となっている。
このユーモアが斎藤理絵の特長だ。混迷する時代にはこの本質を突くユーモアが時代を切り拓く突破口になるのかもしれない。
非力なヒレで突き出しを見せる紅白錦鯉は口元を『うん!』と踏ん張っている。その突っ張りに「あ~!」と声をあげる真鯉。 『阿吽(あうん)』は万物の始まりと終わりを表現する語で金剛力士像や風神雷神図にも用いられている。伝統的な表現を引用しながら、現代的で垢ぬけた作品を描いてみせる作者に、今後も期待を抱かずにおれない。
(作品解説・福福堂編集部)
斎藤 理絵展
ー令和の竜宮城ー
2023年12月14日(水)~12月20日(火)
最終日18:30まで
伊勢丹浦和店6階 ザ・ステージ#6アート
ごあいさつ
龍や人魚、金魚や鯉、河童など、水に生きる”あやかし”たちを描く斎藤理絵の個展です。
想像上の生き物を善悪の判断なく一緒に受け入れてくれる場所が『竜宮城』であったらいいな、
そんな作者の思いから湧き出た作品たちです。
古今東西の伝承や日本画の伝統的な技法を元にして先人たちの知恵を学びつつ、
現代に生きる芸術家としての解釈を加えて描かれるユーモアたっぷりの作品群は
混沌とした現代への1つの向き合い方を示してくれます。
本展では日本画作品約25点を展示いたします。
鑑賞しているうちに、つい時間を忘れる令和の竜宮城へ、さあいらっしゃいー!
展示作品から一部をご紹介
人魚の寿命は300年とも1000年ともいわれますが、蟹や鯉の寿命はそれと比べれば一瞬です。寿命が300年あるとしたら人生で300回の春が来ることになり、10年ならば最大で10回の春が訪れます。(四季のある地域の場合)
この作品はそれぞれの生き物が春を楽しんでいる様子を描きました。寿命の長さは違っても、一瞬で咲き誇り、散っていく花を楽しむ心は一緒なのかもしれません。
「鯉が滝を登りきると竜になる」という登竜門伝説をもとに、鯉が竜に変化し、雲のなかを泳ぐ様子を描きました。一般の竜の姿とは違い、鯉時代の鱗模様が残っているところが特徴です。
生まれながらの竜ではなくて、滝を登りきるという厳しい試練を乗り越えた鯉が竜になった姿を描きたいと思い制作しました。英雄が機会を得て才能を発揮していくという「竜の雲を得る如し」ということわざにもあるように、人知れず続けてきた物事が日の目を浴びるようにと願いを込めた作品です。
鳳凰が互いを抱擁する様に向き合うように配置した作品です。鳳凰は伝説上の鳥で姿を表すと喜びごとが起こるとされ、婚礼などの衣装などにも使われて来ました。日々の生活にもハレの日のような喜びごとがたくさん訪れるようにと紅白の色の鳳凰の意匠と金箔を使いおめでたいムードいっぱいの作品に仕上げました。良い「縁」を繋ぐという意味合いを込め「円」のパネルに制作しました。
この2匹の金魚はお友達なので「魚魚モダチ(トトモダチ)」というタイトルをつけました。魚の別称「とと」と「友達」を合わせた造語が「魚魚モダチ(トトモダチ)」です。
プロフィール
斎藤 理絵
Rie Saito
1990 東京生まれ
2020 京都造形芸術大学通信教育部 日本画コース卒業
2017~ 全国の百貨店でグループ展開催
2018 第44回全国現代童画展 新人賞
2020 第46回全国現代童画展 会友奨励賞
2022 個展 伊勢丹浦和店
2022 グループ展 阪神梅田本店
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