大地の芸術祭に行ったら、恐ろしい目にあった話

 ちょっと前の話。
 越後妻有の大地の芸術祭でぜひ見てみたい会場があったので、家人と車で十日町から気軽に向かったら・・・・・本当に恐ろしい目にあった。

県道75号線は険道だった!

 普段、関東平野のど真ん中でノホホンと暮らしている私たちは、カーナビの案内を無視することが多かった。
 この日は十日町まで行って「十日町高倉博物館」をナビに入れたら、目的地は近いのに表示される所要時間がずいぶんと長い。 
 おかしいな、とあちこちルートを探し、ようやく最短距離と思われるルートを見つけた私たちは、県道75号線(十日町川西線)を行くことにした。

 山谷集落を抜け、だんだんと人家が少なくなっていき、いよいよ山道に入っていくという集落のはずれで、三人のおばあちゃん達が座り込んでのどかに井戸端会議をしていた。山道に入っていく私たちを、彼女たちは「あれれ」という顔で見ていたのだが、「よそ者が珍しいのかな?」というくらいの気持ちで流してしまい、そのまま進んだ。
(今思うとあれは警告だったのかもしれない。)

 少し行くと「星と森の詩美術館」があるらしかった。その地点を通り越し、文字通りの山道に突入すると、どんどん標高が高くなっていき、道幅が狭くなってきた。
 「やばい、ここは酷道だ! もとい、険道だ!!」
 気が付いた時には遅かった。
 私たちは、離合する場所もない道をひたすら上り続けた。 

この時点で標高がけっこう高い
とてもすれ違えない
退避所も無いので対向車が来たら万事休す

(恐ろしくて写真を撮る余裕も無かったので、ストリートビューの写真で失礼します。) 
 こんな道が延々一時間以上続いた。標高の割にガードレールも無く退避所も無く、対向車が来たらもう一巻の終わり。もし熊やイノシシが出てきても逃げようもない。

 私たちは無言になり、ただひたすら神に祈りながら、この道を無事に走破することに集中した。と同時に「もしかしたら今日が私たち人生最期の日になるかも。遺書も書かなかったし、家もそのままにして出てきてしまった・・・」と色々後悔していた。 
 そして何よりもナビの最初の提案に、素直に従わなかったことに後悔した。山道の怖さを全然分かってなかった。
 GoogleMapでも見てはいたものの、目的地は「博物館」だし、途中に美術館があったので、「美術館と博物館を結ぶ道なんだから普通に通れるでしょ」と甘く見てしまっていたのだ。
 関東平野住み恐るべし。

 しかし1時間格闘した後、私たちは何とか目的地である高倉地区の端っこまで辿り着いた。民家が見えてきた途端、全身から力が抜け、「助かった!」と心臓がドキドキしてきた。
 私たちが険道から抜けた時、地元の車が一台その道に入って行ったのを見た。コンパクトカーでスイスイと入っていくその姿からは、地元の余裕を感じた。

 「あの車と鉢合わせにならなくて良かった・・・」震える身体を落ち着かせながら、目的地の博物館に行き、いかにここに来るのが大変だったかと受付の人に嘆いたところ、どうやら私たちが辿ったルートは、この芸術祭がおススメするルートでは無かったようだ。みんな反対側の室島の方から比較的安全な道を上がってきてたそう。 
 山道を舐めてはいかん、と命を張って一つ利口になった。

十日町高倉博物館「時の回廊」

 さて予想外に命懸けにはなってしまったが、私たちが見たかったのは、十日町高倉博物館で開催されている「時の回廊」という展示だった。この高倉博物館は、旧高倉小学校跡地で木造の体育館を利用したもの。

体育館のステージ側から入口に向かって撮ったもの。もっと実際は暗かった

時の回廊 十日町高倉博物館

 この廃校の体育館の中には、昔からの人々の営みを共にしてきた機織り機や風呂釜や鍋窯や棺桶や、ありとあらゆる道具類が暗闇の中に積んであり、そこに確かに人々が生活してきた時間を感じさせる。

 体育館の中央には、木材で組んだ階段状の橋があり、鑑賞者はそこを登って体育館のステージに近づく。ステージにはスクリーンがあり、モノクロで土地の人々の昭和の生活映像が映写されていた。

 このアートのクリエイターは「力五山」という、加藤力、渡辺五大、山﨑真一の三人から成るユニットで、彼らはもう15年もこの高倉地区に通い続け、人々の営みを感じながらプロジェクトを続けているそうだ。

 外の晴れ渡った空から比べると、体育館の中の灯りは微かで、古いもの特有の臭いがし、空気が僅かに湿り気を帯び冷んやりして、私にはそれがとても越後らしく感じられた。

 同じ芸術祭の恒久的展示空間であるジェームズ・タレルの「光の館」もそうだし、ボルタンスキーの「最後の教室」もそうだけど、大地の芸術祭の作品は、暗闇をとても効果的に使ったものが多い気がする。
 それが越後という豪雪地帯の土地の魅力と、とても美しくマッチしていて印象深い気がした。

 映像が止み、少しすると、今度はモノたちが鳴り始めた。
 チンチン、とんとんとん、ガタガタ。
 体育館中からモノたちの「ここにいるよ」と存在を主張しているかのような、誇らしげな音が響き渡った。
 私たちはすっかり魅了されてしまった。(※下の動画を再生すると音が出ます)

時の回廊

 長く使われたモノたちには、付喪神が宿るというが、一つ一つのモノたちに対する愛情と尊敬を感じる展示だと感じた。

 今年の大地の芸術祭は11月10日をもって終了したが、それ以降もいくつか見られる展示があるようなので、興味がある方はぜひカレンダーを確認して訪ねてみて。 

おまけ
 翌日、気を取り直して行ったTunnel of Light (マ・ヤンソン/MADアーキテクツ清津峡トンネル)。ここも暗闇を効果的に使っていた。

全長750メートル 暗闇の坑道
有名な水鏡

運転にはくれぐれも気を付けて。

(ライター晶)

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