日本酒のラベルに扇面画

 暑さが夜になっても引かない新宿で、小説家にして扇子作家という珍しい肩書きを持つ吉本忠則氏と、打ち合わせを兼ねて一杯やることになりました。

 吉本氏の経歴はちょっと風変わりです。美術雑誌の編集者から始まり、アートコーディネーター、扇子作家、そして小説家へ。現在は足立美術館の理事でもあります。肩書きの変遷はもはや変身レベルですが、それぞれにきちんと実績があります。すごい方です。私も彼の作品を三点ほど持っていますが、こうしてゆっくり話すのは初めてでした。年齢はふた回りほど離れていますが、美術好き同士、会話はすぐに打ち解けました。お酒もいいペースで進みます。辛口の日本酒をくいっとやりながら、ふとこんな話になりました。

「先生の扇子、日本酒のラベルに合いそうですね。」

 吉本氏は笑って、

「確かに。ラベルって文字ばっかりだからね。もっと絵で惹きつけるものがあってもいいかも」と言いました。

 たしかに、扇子の雅なデザインが、丸っこい瓶にぴたりと貼られていたら……ちょっと飲んでみたくなるかもしれません。「この酒、気になるな」と手が伸びるはずです。

 そんな妄想で盛り上がった帰り道、不思議と蒸し暑さも気にならなくなっていました。家に着いたら、するりと眠れました。たまには、こんな夜も悪くありません。

宵月夜〈清〉 吉本忠則

宵月夜〈清〉  吉本忠則
冴え冴えとした月光に照らされて、竹むらが浮かび上がる。月あかりと竹あかりの競演……、そんなことを思い描きながら筆を走らせた。
竹は別名、「青士」「青君」と呼ばれる。
いにしえの詩人たちは、天を突くみずみずしい生気に、ほとばしる生命力、飛翔するイメージを思い重ねたようだ。
中国でも古くから、竹は蘭、梅、菊とともに、四君子の一つとされるが、遠めに仰ぐ竹林は情緒にあふれており、日本人の郷愁を誘ってやまない。

文・福福堂編集部

コメント

タイトルとURLをコピーしました