「時価」という概念―寿司と不動産とアートの考察

世間では今、スシロー事件が話題となっていますね。
昔はお寿司屋さんといえば、値段が書かれていない「時価」という世界でしたが、昨今は高級店でも明朗会計の店も増えてきていると聞きます(お恥ずかしながらあまり縁が無いので、伝聞調・・・・)。

しかしこの時価の概念、難しいですよね。
きっとお寿司屋さんにおける時価は、天候や季節や需要によって刻々と変わるネタの調達価格によるものなのでしょう。日々変わる仕入れ価格に、加工費等の変動費、そして家賃や人件費等の固定費を乗せて(更にいけすかないお客さまには接客難易度加算されることもあるかもしれませんが)、まあそうやって計算された金額が「時価」なんだと思います。

不動産における時価の概念

それでは不動産の時価についてはご存知ですか?
不動産の時価評価をする際には、参考にすべき指標はいくつかあります。

(1) 実勢価格

実際に今、取引されている価格です。
不動産屋さんが出している情報サイトなどには、販売希望価格が掲載されていますが、実際には値引きが入ったり色々あって売買価格が決定します。
不動産を取引すると国土交通省からアンケートが来ますので、その取引条件について情報提供しましょう。

国がやっている不動産取引情報サイト

国土交通省 土地総合情報システム Land General Information System

のデータベースに載ります。
いわばナマのデータです。2005年からの全国の情報が載っているので、この18年間の定点観測にも大変便利です。近隣の類似条件の取引価格を参考にすることもできます。

(2) 公示地価

また公示地価という国が発表している価格もあります。
毎年3月くらいに、新聞に公示地価が掲載されていますね。ご覧になったことがある方も多いのではないでしょうか。公示地価は、その年の1月1日時点での全国の標準値の土地価格を公示したものです。前年の取引実績を元に、買い進みや売り進みを排し、様々な条件を整えて、更地としての評価額を不動産鑑定士が算出します。

(3) 路線価

そして国税庁が発表している「路線価」というものもあります。
こちらは国税庁が発表している「相続税の評価基準となる土地の価格」です。相続税申告を行う際に、納税者がいちいち不動産鑑定士さんに評価額を算出してもらっていては大変なので、国税庁が実勢価格や公示地価を元に、道路に面している土地の価格を便宜上発表しています。こちらの発表は毎年7月くらいでしょうか。申告したい土地が面している道路に1㎡あたりの価格がついてますので、それに色んな土地の条件(袋地だとか、二本の道路に面しているとか)を補正して算出します。
この「路線価」は、公示地価に比べると少しお安く設定されているようです。
バブル崩壊後に不動産価格が暴落していた際には、路線価よりも実勢価格のほうが安くなってしまって物議を醸したこともありました。

(4) 固定資産税評価額

そしてそして、各市町村が決定する固定資産税評価額というものも、広~い意味で時価に含めても良いかもしれません。実勢価格に比べてもかなり低めな価格ですが、文字通り固定資産税を徴収するために算出された評価額です。三年に一度評価替えされます。
土地と家屋が別々に評価されるので、土地付き家屋を購入した時など、固定資産税評価額の比で按分してそれぞれの価格を算出することに使えて便利です。

(5) 不動産鑑定士による個別評価

上記(1)や、収益還元法(事業用不動産において利回りから逆算して不動産価額を算出する方法)、もしくは原価法(もう一度その不動産を手に入れるとしたらいくらかというアプローチ)から、総合的に評価額を算出します。不動産鑑定士は国家資格、しかも難易度が相当高い資格です。その鑑定士が資格を賭して算出する評価額は信頼性が高いです。

LA VITA A TORINO「トリノの日々」毛利元郎 油彩

アートにおける時価

不動産という取引件数が多い世界に比べると、アートの世界はまだあまり評価方法が整備されていないかもしれません。それでもアートを評価する時の考え方にはいくつかあると思います。

(1) プライマリー価格

アートを画廊や百貨店で販売する際の価格です。発表価格と言います。日本の画家だと「号単価」という慣習があり、例えば号7万円の作家の6号(F6号の場合410x318mm) の作品は42万円となります。その作家の存命中は号単価が上がることがあっても、下がることは原則としてありません。

(2) セカンダリー価格

「バンクシーの作品が25億円で落札!」とか「バスキアが8500万ドル!」とか、時々オークションでの天文学的な落札価格がニュースになりますよね。このオークション市場はセカンダリーマーケットです。一度愛好家やコレクターの手に渡った作品がオークション市場で取引された場合につけられる価格です。

このセカンダリーでいくら価格が上がっても直接、作家の懐が潤うわけではないのですが、セカンダリーに釣られて段々プライマリー価格も上がっていきます。ここに解離がありすぎると、転売目的の方たちがプライマリーの現場で買占めをするようになります。

セカンダリーの価格は上がりもすれば、下がりもします。
またセカンダリー市場に出る作家の作品はそもそも知名度もあり評価されているものが多いのですが、昨年は東京藝大の現役美大生の作品が、ニューヨーク・クリスティーズのオークションで160万円で落札され話題になりました。

(3) 企業評価の観点から

上記のふたつは、アートの販売・売却価格ですが、それではアートを所有している企業評価の考え方ではどうなるのでしょうか。企業を買収しようとする場合、その会社の資産性やリスクを徹底的に調べることになりますが、その会社の資産性については貸借対照表を簿価ではなく時価評価したもので判断します。その際に会社が所有するアートは、時価すなわち売却可能価額で見ます。このアートを市場に出したらいくらの値がつくか、今、この会社を清算したらいくらになるのかという観点からです。

(4) 保険会社等の観点から

上記(3)で挙げた時価は、「今、そのアートを売ったらいくらになるか」という観点からでしたが、保険会社等が考える時価は、「そのアートを今、市場から調達したらいくらで手に入れられるか」という再調達価額という観点から見ます。アートの場合、版画等以外は一点ものですので、類似のものの価額ということになるのでしょう。またそのアートが減価償却資産として会社の貸借対照表に掲載されていた場合、市場から調達した価額から時の経過により減価した部分を減額されることも有り得るかと思います。

(5) アーティストの観点から

上記(1)から(4)は、アートの所有者としての観点からの考察でしたが、ではアーティスト自身が自分の作品を「棚卸資産」として有している場合の考え方はどのようになるでしょうか。画家は日常的に作品制作をしている云わば製造業者でもあります。材料と労力を投入して画家自身のエッセンスを振りかけて、アートという最終物を創り出しています。1月1日(期首)にも12月31日(期末)にも、未販売のアート作品は、手元にもしくは画商の手元に保管してあるでしょう。もしかしたら年末年始を通して、どこか百貨店の展覧会に出品中かもしれませんね。

生み出したアート作品=即完売の作家さんなら、在庫=棚卸アート資産のことはあまり気にしなくてもいいかもしれませんが、普通のアーティストなら常に在庫はあるかと思います。
なかには、何年も売れない滞留在庫作品もあるかもしれませんね。

ご存知のように、売上原価は、売上に対応するものしか認められませんので、期末の在庫評価というのは重要な仕事になります。

その際の評価方法についてもいくつかあります。
評価方法は大きく分けて、原価法と低価法。
また原価法には最終仕入れ原価法・先入先出法・個別法・総平均法・移動平均法・売価還元法があります。
どれを用いて評価するかは、税理士さんと相談したほうが良いかと思います。

以上、広義の時価についてゆるく関心の及ぶ限り考察してみました。

今年の春は、福福堂の目標達成のお祝いに、近くの高級寿司店に功労者を誘って皆で行く予定です。回らないお寿司!時価ネタあるかな。堪能します!!

(ライター晶)

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