毛利さんについて

先日7日まで、毛利元郎氏個展を開催していました。
場所は伊勢丹新宿店のアートギャラリー。期間中は台風18号に襲われるアクシデントがありましたが、それでも何度もいらして下さったり、遠方から足を運んで下さったお客様がおられました。

開催中日の土曜はトークショーでした。イタリアの文化と食についてがテーマでしたが、その場では毛利さんの生き方そのものが語られたように思います。
子供の頃から安藤哲夫先生に絵を師事していた話、大学卒業からイタリアへ留学する話、イタリアへ降り立ってから驚いた体験、ペルージャでの日々等々・・・朴訥としたおしゃべりで、聞いている方の心がぽうっと温かくなるそんなお話でした。

食の話では、イタリアでおよばれした食事会のメニューを読み上げて下さり、20年以上昔のことなのにしっかりと内容を記録して、その感想と共に大切な人生の一部とされていること。またペルージャを去る際に、恩師である安藤先生宛てに書いた手紙のこと・・・・・すべては彼を形作るひとつひとつであり、この画家はなんて人生を丁寧に生きているんだろうと感じました。

イタリアの家庭食の素朴さに魅了される毛利さんの心根は、やはり彼が描く絵に共通するものがあり、決して虚飾を用いることなく、裏も表もなく、滋養に満ちていて鑑賞者を優しく包み込み、いつまでも輝き続けます。

毛利さんとの付き合いは画廊を始めた頃に遡りますので、もう11年余になりますが、お互い30代から苦楽を共にしてきた感があります。ギャラリー上原が実験的に始めた他スペースでの展示に力を貸して頂いたこと。当初は「扉」だけだったモチーフが、やがて扉が開きその向こうに階段が見え、絵中絵が見え、そして扉は建物になり、街になり、丘からの風景になり、雲になり・・・・・時の経過と共に訪れる作品の変化を見続けられたこと。スランプだった時のこと。絵が売れすぎて足りなくなってしまったこと。一点も売れなかった展覧会での搬出で台風に襲われ、傘が吹き飛び、工具を濡れた道路にぶちまけてしまったこと。ある日突然毛利さんが、自宅のある北茨城から画廊のある渋谷区まで自転車に乗って現れたこと・・・・・・・・。

一人の画家と時代を共有し、その変革や人生の道筋を見続けてこられること、関わっていられることはなんて贅沢なことだろうと思います。

今回の個展で、とある方に「久しぶりに本物の画家を見た」という言葉を頂き、私は思わず感涙してしまったのでした。

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